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第九章

199.罰当たりな嘘

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「理玖、ごめん。今日は体調不良で塾を休むから、帰りのお迎えは要らないよ 」

『えっ!  大丈夫?  風邪でも引いた?』


「大したことはないんだけど……。今日はごめん、またね」



  そう言って、身を心配してくれる理玖との電話を切った。


  本当は体調なんて悪くない。
  心の中のしこりが渦巻いていたから、罪のない理玖に罰当たりな嘘をついた。

  罪悪感によって震える指先で通話終了ボタンを押す自分が情けない。
  理玖と会えばいつも通りに楽しいし幸せなのに、最近会う直前までは別の事を考えている。


  バレンタイン前日に『好きだ』と伝えてきた翔くんが頭から離れない。
  私には翔くんとの未来なんて無縁なのに、理玖との現在いまを台無しにしている。

  三角関係がもつれてしまったあの日。
  理玖とケンカ後にその場に取り残された翔くんの切ない表情が、目に焼き付いて離れようとしない。


  あれから3週間近く経とうとしてるのに、何度も同じシーンが頭の中に鮮明に蘇ってくる。
  理玖と楽しく過ごしていても、一度その事が頭に過ぎると翔くんの事で目一杯に……。


  たまにしか開かなかった思い出の宝箱は、あの日を境に開く機会が増えた。
  長年大事にしまっていたイルカのストラップを手に取って思い浸る日々が続く。

  このままじゃいけないと思って、何度もしつこく自分に言い聞かせているのに……。


  一度暴走を始めた恋心は急ブレーキが利かない。
  今は恋人の定休日を設けてしまうくらい恋の病は深刻だ。


  理玖との恋路を選んだはずが、一度激しく地盤が緩んでしまったせいか、たまにオカシクなる。
  軌道修正をしようと思いつつも、いつしか理玖と会わない理由を探し始めている自分に気付いて無性に腹が立った。


  でも、恋心に気付いたあの時からまだ日は浅いから、少し経てば落ち着くのではないかとも思ってる。
  何故なら、翔くんとレストランで数年ぶりに再会した後と、神社に翔くんが現れた日の後に気持ちが一旦治っていたから。

  以前と同じように理玖と上手く関係を続けていけば、いつか忘れられるかもしれない。
  これから先顔を合わせなければ、もう二度と心が狂わされる事はないだろう。



  ごめんね、理玖。
  今は気持ちが不安定だけど、これからも彼女でいたいと思ってる。
  そう遠くないいつか、必ず気持ちにケリをつけるから。
  もうこれ以上辛い想いをさせないように努力するから。

  だから、たった一度だけでいいから。
  ほんの少しだけでいいから。

  一人で立ち止まる時間をちょうだい。

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