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第九章

190.身から出た錆

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  咲は目の前でクッキーを次々と口にほおばってる愛里紗に、先程から気になってる事を聞いた。



「目が赤いように見えるんだけど……。もしかして何か嫌な事があったの?」

「ううん。昨日理玖と一緒に映画を観て泣いただけ」



  咄嗟に首を振って嘘をついた。
  勿論、涙の理由を詮索されない為。

  ところが、一時しのぎの嘘は想定外の事態を引き起こしてしまう。



「へーっ、それって何ていう映画のタイトル?  俳優は誰が出てるの?  私も見たーい!」

「えっ!」


「泣ける映画が観たいな~って思ってたところだったの。ねぇねぇ、その映画ってどんな内容なの?」



  残念ながら、向かい風で戻ってきた嘘の塊に脳内処理が追いつかず、クッキーへ伸ばしていた手が止まる。
  これが、身から出た錆というもの。



「あっ、えーっと、えーっと……。えっエロいやつだから、さっ……咲には向かないよ」



  冷や汗びっしょりのまま吃らせていること自体怪しいのに、思考を巡らせた行く末の最善策がコレだ。
  そのせいもあって、咲との間に微妙な空気が流れた。



「えっ!  エロい映画を観て目を腫らすくらい泣いたの?」

「あ……あっ、うん。あはは。だから、その映画は泣けるんだけど、咲にはお勧め出来ないかなぁ、なんて……。あはあは……」


「ふーん、そんな映画あるんだぁ。話題になってないけど、どんな内容か気になるかも……」



  怪しい返答に首を傾げた咲。
  果たして嘘を信じ込んだのだろうか。

  読みが甘かった。
  突っ込まれても答えられるように、いくつか返答を用意しておけば良かった。

  もしこれがノグだったら、更に根掘り葉掘り聞かれて大変な目に遭ったかもしれないから、下ネタ話に一切ノらない咲でマシだったかもしれない。


  しかも、更に最悪なのは何の罪もない理玖を巻き添えにしてしまった事。
  ごめん、理玖……。
  後でお手製のマフィンをあげるから、最低な嘘をついてしまった事を許してね。

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