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第八章
167.聞き覚えのある声
しおりを挟む俺はギャルの格好の餌食になっていると、それ以上に騒がしい女子集団が校舎の向こうからやって来た。
だが、その間にも迷惑をこうむり続けているせいか、三人組の声にかき消されていく。
「クルちゃん、制服学ランなのぉ? カッコイイー!」
「わぁ、ウチらの学校に来た記念に制服の第二ボタンちょうだい」
「クルちゃんって、身体から何かいい香りがするぅ。クンクン……イケ臭?」
「やめろ……」
親しくもないのに制服を調べる為にコートをヒラリと裾から捲られたり、遠慮なく顔を近付けて匂いを嗅がれる行為など、全校生徒が次々と出てくる校門にて堂々とセクハラを受けていた。
誰か……。
素通りするのはやめてくれ。
早く警察を呼んでくれ。
頼む、助けてくれ。
心を鬼にした翔は、コートを捲り上げる手をシッシと追い払っていると、騒々しい集団が接近して来て背後から会話として成立するくらい鮮明に聞き取れるようになった。
「ユカちゃん、今日も笑顔がかわいいねぇ」
「理玖ったら! いつも褒め上手なんだからぁ」
一瞬、聞き覚えのある声と呼ばれた名前に反応して我が耳を疑った。
……ん、理玖?
理玖って、まさか……。
翔は振り払う手を止めて背後の集団に目を向けた。
すると、10メートルほど先の女子五人組の間に挟まれるように男が一人。
彼は如何にも軽い口調と元気なノリで愛想を振りまき、女子と共にワイワイと楽しそうに騒いでいた。
しかも、集団の中の男をよく見てみると、そこには自分がいま探している渦中の人物の理玖が女子集団の中に我が物顔で紛れ込んで、お世辞の嵐を吹き荒らしていた。
目を疑うあまり、目をこすってからもう一度食い入るように見入るが、何度見ても間違いない。
まさかの展開にポカンと口を開けているが、理玖の饒舌なトークは終わりを知らない。
「サラちゃん、髪型変えたの? 俺、そんな感じのゆるふわ巻きが好みなんだ~」
「マジ? 理玖が言うなら、もう一生髪型変えない」
「理玖、いつになったら彼女にしてくれるのぉ?」
「あはは……」
「瑞穂~。私が先に予約したんだから」
「私だって、前々から予約してたんだからぁ」
「まぁまぁ、熱くならないで。俺は束縛が苦手なんだよねぇ」
「理玖ぅ。いつも忙しそうだけど、今日は遊べるの?」
「あーっ、ごめん! 昨日だったら遊べたのになぁ……。残念だけど今日も予定が詰まっててさ。また今度誘ってね」
理玖は期待感を漂わせるような発言を繰り返して愛想を振りまいていると、翔は眉間に皺を寄せた。
「あ、あいつ……」
「クルちゃん、あいつってだぁれ?」
「お友達来たの?」
「えーっ、イケメンどこどこ?」
翔のコートから手を離そうとしない三人組は、不揃いにキョロキョロしながら次の獲物を探し始めた。
あいつ……。
ひとり身ならまだしも、お前には勿体無いくらい可愛い彼女がいるクセに、どうして他の女に愛想を振りまくんだ。
最初は第一印象で全てを決めつけてはいけないと思っていた。
もちろん話し合いが主だったが、愛里紗が付き合う男だから奴には隠れた魅力があるんじゃないかと思って慎重に見守っていた。
愛里紗が一緒にいなければ尚更。
奴の本来の魅力が分かち合えるんじゃないかと思って期待していたのに……。
クルちゃんは癖毛の俺じゃなくて。
しつこくセクハラ行為をしてくる三人組でもなくて。
実は奴が本物の狂ちゃんなのかもしれない。
翔は根本的な考え方の相違からやるせない気持ちになると、震わせていた拳は血管が浮き始めた。
今は遠目からキラリと光らせる白い歯ですら憎く感じる。
翔はコートの裾を捲ったり、鼻を近付けて匂いを嗅ぎとっているセクハラ三人組の前に右手のひらをバッと向けて嫌がらせ行為を遮断。
三人組は瞬く間に揃って身体を反らせた。
上目使いで睨みを利かせながら、5メートル先の理玖集団へ殺気立たせながらズカズカと足を向かわせた。
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