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第六章

129.口止め

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  愛里紗は世間話に一旦きりがついたタイミングを見計らうと、震わせた唇をぎこちなく開かせた。



「実は、先日谷崎くんと再会したの。咲のアルバイト先で偶然に……」

「そう……」


「そしたらね!  そしたら、咲が谷崎くんといま付き合ってるって……。咲が前々から話していた好きな人が谷崎くんだと初めて知って……」

「うん」


「翌日話を聞いたら、私と谷崎くんの関係を知ってみたいで……。私達が再会したら、自分に勝算がなくなるから告白日を前倒しにしたって。しかも、谷崎くんの心を刺激する為に私自身に自分と同じ髪型をセットさせて、身なりを近付けてから告白しに行ったって」

「………」


「咲に彼氏が出来て喜んでいた時に、名前を聞いたら誤魔化すし、写真すら見せようとしないし、彼氏と一緒のバイト先に来て欲しくなさそうな言い方をしてたから、薄々おかしいなって思ってた」

「………」


「谷崎くんの存在を隠すどころか、少しも気付かれないように、再会させないように仕組んでいたなんて信じられなくて……。咲の事を信じてたのに。一生の親友だと思っていたのに……」



  一度語り始めたら雪崩が起きてしまったかのように止まらなくなった。
  つい先日咲が言っていた言葉を思い出して感情を爆発させながらも、胸の中に留まっていた想いを吐き出した。

  すると、瞳から大粒の涙がポロポロと落ちて行った。
  左手で涙を拭っていると、ノグは隣から髪を撫でた。

  ところが、ノグの口からは更に追い討ちをかけられる。



「実は、少し前から駒井さんと谷崎の仲を知ってた……。黙っててごめん」



  愛里紗は再び衝撃的な事実を耳にすると……。
  涙でびしょ濡れになっている顔で、まさかといった半信半疑の目を向けて、聞き間違えを正すかのように細い声で返事を煽った。



「えっ……」

「8月下旬に渋谷で偶然二人に会ってね。その時に二人が付き合ってる事を知ったの。後日、駒井さんからあんたに交際してる事を内緒にしてって頼まれて……。別にあんたを裏切ろうとして黙っていた訳じゃない。駒井さんと約束してたんだ」



  ノグはジーパンの膝元をギュッと強く握りしめると、まるで愛里紗に謝るかのように頭を下ろした。



  え……。
  ノグが咲達の交際を知ってる事に驚いたけど、咲が交際を秘密にするように口止めを?
  待って、意味わかんないんだけど……。

  しかも、8月下旬って。
  3ヶ月前には二人が交際していた事を知ってたんだよね。

  そう言えば、学校の廊下でノグが切ない目つきで私を見ていた事があった。
  あの時は何かを訴えるような目つきに違和感があったけど、今考えたらそーゆー意味だったのかな。



  最悪……。
  ノグは小学生の頃から味方だと思ってたのに。
  谷崎くんに告白しようかどうか悩んでいた時も力になってくれたのに。
  恋を間近で応援してくれたのに。

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