125 / 226
第六章
123.運命の鍵
しおりを挟むーー本格的に冬が到来した。
冷たい風に身震いするような寒い日が続き、コートの出番がめっきり増えた、12月下旬に差し掛かった土曜日。
今日は午後から理玖とデートの約束をしている。
朝食を終えて着替えもせずに朝の情報番組をつけながらリビングのソファーでのんびり寛いでいると。
ガシャーン……
背後から平和を乱す衝撃音が耳に入った。
ソファーからひょこっと顔を出して、キッチンにいる母に心配の目を向けた。
「あら、やだ。マグカップを落としちゃった」
「大丈夫? 怪我してない?」
「大丈夫よ。手が滑っただけだから心配しないで」
「もーっ。お母さんったら、おっちょこちょいなんだから! それ、お母さんがお気に入りのマグカップじゃん。ちょっと、気をつけてよ!」
「おっちょこちょいのあんたにだけは言われたくないわね。……ほら、減らず口はいいから一緒に片付けを手伝ってちょうだい」
母といつものように軽く言い合いながらキッチンへと移動して、散乱した陶器の破片を一緒に一つ一つ拾い始めた。
陶器の破片を二人でビニール袋に入れていると、インターフォンが鳴った。
ピーンポーン……
「……あら、誰かしら?」
母親は作業をしていた手を止めて立ち、壁面に設置されているインターフォンの受話器を手にとる。
愛里紗はモニターに映し出されている映像を見ると、そこには隣の家の奥さんが映っていた。
「おはようございます。……あっ、はい。えぇ……。いま行きますね」
母親は受話器を戻すと、エプロンのポケットから物置の鍵を出した。
「お隣さんが回覧板を届けに来てくれたから、代わりに物置からホウキとチリトリを持ってきてくれない?」
「いいよ~」
愛里紗は物置の鍵を受け取ると、一階のリビング窓を開けて足元のサンダルを履き、外の物置へ移動した。
ベランダの物置の鍵を開けて数年ぶりに中に入った。
朝と言えども物置内は暗くひっそりとしていて中の様子が伺えない。
外から差し込む太陽光が照明代わりになっている。
四畳ほどの物置の中で見回すと、スチール棚に積み重なっている箱や、キャンプ用品や、父のゴルフ用品や、昔よく遊んだスケボーの上には経年によりあちらこちら埃が被っている。
父が物置に入った所を数回程度しか見た事ないし、私も引っ越してきた初年度以来入っていない。
放置状態からして母も物置から遠退いてる様子。
引越し当初から使用している物置。
実は深い思い出があった。
引っ越してきたばかりの小学六年生の頃、ちょっとしたイタズラ心で母を驚かそうと思って物置の中に隠れた事があった。
しかし、日が傾いてもなかなか見つけてもらえず、いつの間にか疲れて眠り込んでしまった。
すると、母は夜になっても帰宅しない娘を心配するあまりパトカーを呼んだ。
あの時はヒドく怒られた。
母の頭にはツノが生えてた。
まぁ、夜まで一人娘が戻って来ないし連絡ないし、心配するのは親として当たり前か。
それ以来、私を物置から遠去けるように施錠するようになった。
しかも、その鍵をエプロンのポケットに入れて、未だに持ち歩くほど。
ただ、鍵を持ち歩くのが習慣になってるだけなのかもしれないけど。
叱られたあの日から自分自身も自然と物置から足が遠退くようになり、物置はベランダの景色の一部になっていた。
物置の中は淀んだ空気と埃まみれの物。
あまりにも劣悪環境だから、正直長居はしたくない。
扉の真横に置いてあるホウキとチリトリを取り出して、物置から出てから扉の取っ手に手をかけた。
ところが物置の扉を閉じようとした瞬間、左前方のスチール棚の上段隅に積み重ねてある、ある物が視界に飛び込んだ。
だが、一瞬視界に入ったそのある物が運命の鍵をこじ開けるキッカケに……。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
カーテン越しの君
風音
恋愛
普通科に在籍する紗南は保健室のカーテン越しに出会ったセイが気になっていた。ふとした拍子でセイが芸能科の生徒と知る。ある日、紗南は喉の調子が悪いというセイに星型の飴を渡すと、セイはカーテン越しの相手が同じ声楽教室に通っていた幼なじみだと知る。声楽教室の講師が作詞作曲した歌を知ってるとヒントを出すが、紗南は気付かない。セイはお別れをした六年前の大雪の日の約束を守る為に再会の準備を進める一方、紗南はセイと会えない日々に寂しさを覚える。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる