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第五章
111.私と彼の距離感
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「店長、お先に失礼します」
「駒井さん、お疲れ~」
レストランの勤務を終えて、私服に着替え終えてから仲間に挨拶。
先行く翔くんの背中を追って上着を羽織りながら店を出た。
交際を始めて半年経っても、相変わらず背中を追いかけてる。
他のアルバイト仲間の姿が見えなくなったところで、彼の後ろから腕にサッと手を絡めた。
彼は無表情のまま首を軽く傾けて横目でチラリ。
少し意識が向いたところを見計らって言った。
「翔くん、少しお茶してから帰らない?」
時刻は22時16分。
時間的にどうしようか迷ったけど、意を決して誘った。
でも、彼は目を背けてフーッと深いため息をつく。
「期末テスト前だから、また今度」
正直、私達は未だに恋人と言えるレベルじゃない。
心の距離は近付くどころか最近は遠退いてる気が。
ねぇ、気付いてる?
翔くんは夏休みの終わりにノグちゃんと街で再会したあの日からずっと様子がおかしいんだよ。
あれからもう2ヶ月以上経ってるのに、翔くんの気持ちはあの日に残されたまま。
『あぁ』
『そうなんだ』
『へぇ……』
何を話しても機械的な返事しか返ってこない上に、私への質問どころか自分の話すらしない。
ただ、相槌を打つだけ。
昔の街を離れてから長い歳月が経ったから、過去はもう忘れたんじゃないかなって。
新しく生まれ変わる為に私と付き合い始めてくれたと思っていたのに……。
塞ぎ込んでる様子や、何かを考えているような仕草を見ると、嫌な予感がしてならない。
「じゃあ、公園。お茶しなくていいから10分だけ付き合って」
咲は駄々をこねるようにそう言うと、うんともすんとも言わない翔の腕をグイッと引いて半ば強引に近所の公園へ連れて行った。
アルバイト先付近のブランコと砂場とベンチしかない小さな公園に到着。
ベンチに二人並んで腰をかけた。
夜空をゆっくり囲んでいく雨雲が月光をボンヤリと濁らせて、何処からか聞こえる虫の音が不協和音を鳴り響かせている。
街灯に照らされている彼の表情は空模様と同じ。
隣でそんな彼を見ているうちに、自分の表情も自然と暗くなった。
「最近どうしたの? 自分から話そうとしないし、曖昧な返事ばかりだし、『ごめん、聞いてなかった』と言う事が多くて……。少し様子がおかしいよ」
私はここ最近思っていた事を正直に問いかけた。
すると、彼は浮かぬ表情のまま口を開く。
「えっ……。俺、何かおかしいかな? 特に気にしてなかったけど」
第三者が見ても明らかに様子がおかしいのに、どうやら自分の変化に気付いていない様子。
それが無意識だと知ったら更にショックを受けた。
翔くんの頭の中の私という存在が、うっすらしている事が判明したから。
私だって辛いんだよ。
いつも空っぽで身体は傍にいても中身は知らない何処かにいる。
私達付き合ってる意味があるのかな。
時々わからなくなる。
愛里紗は理玖くんと交際を始めた初日にキスをしたのに、半年以上も交際している私達は未だに何もないなんて。
手を繋ぐのはいつも私から。
デートだって一度も誘ってもらった事がない。
最初は手が届かない存在だったから付き合ってくれるだけでも幸せって思ってた。
三度目の告白でようやく想いを受け止めてくれたから。
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