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第五章

105.リアルな悩み

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  先程は感情を取り乱して少し疲れが溜まっていたのか、たった数時間前に咲と話していた内容を忘れていた。
  近所をブラブラとデートしていたけど、日没を迎えたのでデートの延長線上で招かれた敵地に何も考えずに侵入してしまった。


  そう……。
  現在私がいる場所は理玖の家。
  デートの最終地点として行き着き、通されるがままに上がってしまったという。


  先程自宅に上げる事を頑なに拒んだところまでは良かったけど、中学生時代に理玖の家に何度もお邪魔していた感覚だけが残っていたせいか疑いもせぬまま上がってしまった。

  浅はかだった。
  しかも「あー疲れた」とか言って、自分からテリトリー内のベッドに腰をかけてるし。



『愛里紗のハジメテの相手は理玖くんかもね。なんか、ドキドキしちゃうね』



  ふと悪魔の囁きが蘇った。
  ここでようやく気付いた。
  危機感のない自分に。


  バカバカバカ!
  私ったら、大切に守り通してきたハジメテを簡単に捧げるつもり?

  しかも、中学の時にコンセントに足を引っ掛けて倒した時に怒られた縦型信号機の点灯が赤から青に変わった瞬間、ゴーサインが出たと勘違いして私に襲いかかって来るのかもしれないというのに……。


  ここは戦場。
  ベッドから不自然に腰をあげるのも、意識してるように見られてしまうかもしれない。
  何か立ち上がれるようなキッカケとかあれば……。



  部屋の中を軽く見回すが、残念ながら目新しい物が見つからないし、混乱しているせいか気を逸らせる面白い話題もない。

  だが、次に視界に入ったのは彼の机。
  留学を夢見るくらいインテリアに拘りを持って、いつも整理整頓していて部屋自体は綺麗なんだけど……。

  あれ?
  この前、机に重ねてあったはずのエロ本が一冊もない。
  先日は三、四冊積み重なっていたのに。

  しかし、机から何となく目を逸らした瞬間、ふと嫌な妄想が駆け巡った。



  まさか……。
  今から襲うつもりだからエロ本なんて必要ないって事かな。
  今は私の身体しか興味が……。



  妄想が過剰に働く愛里紗の顔は次第にサーッと青ざめていき、ベッドに沈めている両手は震えが止まらない。



  自分でも病的なほど考え過ぎだってわかってる。
  でも、心の準備が整わぬまま奪われるかもしれないと思ったら……。



  ドックン……  ドックン……



  一旦落ち着こう。
  私達は交際を始めてからまだ3日目。
  理玖は昔から大切にしてくれているのに、いきなりハジメテを奪う訳ない。



  愛里紗は気持ちを落ち着かせるようにフーッと深く溜息をついていると、理玖は向かいで荷物を床に置き、ブレザーの襟に両手をかけた。
  だが、頻りに神経を尖らせている愛里紗はそんな些細な行動ですら過剰反応してしまう。



  ま……まさか、今から服を脱ごうとしてるの?
  服を脱いでからどうするつもりなの?
  男女二人きりの密室なのに。
  やっぱり私のハジメテを奪う為に……。



  妄想レベルがワンランクアップすると、顎に汗がビッシリと滲み出した。



  心の準備が出来てないよ。
  キスはしたけど、次のステップに進める段階じゃないし。
  キスだけでもいっぱいいっぱいだったのに。
  早く手を食い止めないと私の身が危険に……。

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