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第五章

104.聖域

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  愛里紗の自宅から5分ほど歩き、イチョウの葉が散らばる狭々しい歩道で理玖は手を二回引くと、ある場所に人差し指を向けた。



「お!  あったあった。あの神社で軽く参拝していかない?  今後の俺達の恋愛について」

「えっ、参拝?」



  理玖の指をさした先の神社に目を止めると、思わず衝撃が走った。



  ドクン……



  まるで身体の外まで飛び出してしまいそうな胸の衝撃とセットで、古傷が抉られるような苦しみに襲われた。

  ーー彼が今後の恋愛について参拝しようとしていた神社。
  そこは、小学六年生の頃に谷崎くんと毎日一緒に過ごした二人だけの特別な場所。



  神社が視界に入った途端、心の奥底にヒッソリと眠っていた記憶が少しずつ呼び覚まされていく。

  胸の苦しみと戦っていると、突然強くて冷たい北風が向かい風として鳥居前に佇む二人に襲いかかった。
  まるで、神社から二人を追い払うかのように……。

  北風を浴びた瞬間、眉がピクッと動いた。
  足を踏み入れてはいけないような気がした途端、理玖の手をギュッと引き寄せた。



「この神社はっ……ダメッ……」



  愛里紗は境内を包み込んでしまうほど大きな声で引き止めた。
  それと同時に、握りしめている手の圧が加わわっていく。



「あっ……うん。ゴメン」



  理玖が思わず謝ってしまうほど二人の間にズレが生じていた。
  愛里紗はハッと我に返り、反省しながら首を横に振る。



「……ううん、今度別の神社に行こうね。ごめんね」

「いーよ。お前と一緒ならどこでも行くよ」



  一瞬不穏な空気に包まれてしまったが、お互いが一歩ずつ引きを見せると、普段の調子を取り戻していく。



  神社を久しぶりに目にした瞬間、どうして胸が押し潰されそうだったのかな。
  谷崎くんが街を去ってからだいぶ経つのに。
  今はそれぞれお互い別の人生を歩んでいるのに。

  ひょっとしたら、理玖と二人で足を踏み入れてはいけない聖域だったのかもしれない。

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