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第五章

97.足を止めた先

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  教室を出た後、体育館で開催されているエコファッションショーを見に行った。

  エコファッションショーとは、家庭部の企画で手作り衣装にリサイクル素材を一つ以上プラスした装飾衣装を着て行うファッションショーの事。
  限りある資源を大切に扱おうというテーマで毎年行われてるらしい。


  一見レースに見える素材は使い古しの網戸だったり。
  フリンジに見えるものは包装紙を包んでいたリボンだったり。
  一見レザー素材に見えるものは牛乳パックをくしゃくしゃにして、茶色の水性塗料に染色して繋ぎ合わせたものだったり。

  斬新なアイデアとデザインに驚かされたけど、司会者からエコ素材の説明が加わる度に、意外なアイテムの使い道に会場内はドッと湧いた。


  理玖はファッションショーの最中にそわそわした様子で何度も腕時計を見ていた。
  それを横目で見ていたので、やけに時間を気にしているな~なんて思ったりして。

  ファッションショーがフィナーレを迎えて会場の皆が目が釘付けになっていた、その時。



「行こう」



  理玖はそう言って私の手をギュッと握りしめてきた。
  前触れもなく握りしめてきたので、びっくりして理玖に目を向ける。



「えっ、何処に?」

「特別な場所があるから見せてあげる」



  そう言うと、手を引いて体育館から飛び出して校舎へ向かった。



  ーーこの学校には、もう二度と来る事はないと思っていた。

  校舎内は学校見学の時しか見る機会がなかったけど、今は来場客の合間をスルリと潜り抜けて手を引かれたままよく知らない校舎内を全力で駆け抜けている。


  途中、歩幅に追い付けなくて足がもつれて何度も転びそうになった。
  彼は何度か振り返りつつも、足を止める事なく前を行く。
  私はただただ彼の大きな背中を見つめたまま手を引かれるだけ。

  走り疲れて呼吸は辛く乱れる。
  それでも彼は足を止めない。


  教室
  音楽室前
  階段

  数々の教室前を駆け抜けて行く最中、以前二人で経験したような光景が一瞬頭をよぎった。

  そう……。
  あれは、今でも忘れはしない中学校の卒業式の日。
  引きずられるように足を交差して走っているうちに、いつしかあの頃の記憶が鮮明に蘇ってきた。



  ーー中学校の卒業式の日。
  理玖は校門で友達と別れを惜しんでいた私を掻っ攫い、もう二度と足を踏み入れる事のないと思っていた校舎へ逆戻りした。

  痛いくらい手を強く握りしめて、次々と教室の前を駆け抜けいき、辿り着いた先は屋上前の踊り場。
  その直後に、私は彼とファーストキスをする。



  今は学園祭に遊びに来ている来場客や生徒達の間を潜り抜けて走っているけど、スライドするように目に映っていく光景はあの頃と近い。

  でも、一つ違うのは今の距離感。
  だから聞いた。



「どこへ行くの?」



  彼は黙ったまま答えてくれない。
  ただただ息を切らしながらひたすら階段を駆け上るだけ。

  不器用に絡まっていた足は、疲れてしまったせいか重くて上がらない。
  階段を何段駆け上ったか分からないほど。
  お互いの額にはジワリと汗が滲み出ている。



「ハァッ……ハァッ……」

「……ハァッ……ハァッ……」



  ーー理玖が足を止めた先。
  そこは、屋上前の踊り場で中学校の卒業式のあの日を彷彿させる場所だった。

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