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第四章

89.初恋

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  理玖は腕を解いて身体を向かい合わせにすると、両親指の腹で愛里紗の涙を拭い、両肩を掴んで目線を合わせた。



「俺はお前の笑顔が好きだよ」



  彼は今日に限らず何度か『好きだ』と口にしてくれた。

  でも、可愛い子がいればすぐ『可愛い』って言っちゃうし、優しくしてもらったら『優しいね』って。
  昔から思った事をすぐ口にするから、好意があると度々勘違いされていた。


  それは女子だけに留まらず、男子にも『お前スゲェな』とか『カッケェな』とか『頼りになるな』とか。
  日常的に人を立てているから本音と冗談の境目がわからない。



「冗談キツイよ。またいつもの他の子にも好き好き言ってるやつでしょ」



  告白を間に受けている自分を切り離すように
手を解こうとしたけど、彼は解かれぬように力を加えた。



「逃げんな。それがお前の悪い所。勘違いしてるようだけど、冗談でも他の女に好きって言ってない」

「……」



  と、稀に見るほど真剣な眼差し。
  冷静のまま話の主導権を握る。



「お前は俺の初恋なんだ」

「……私が、初恋相手?」



  聞き返すと、彼は間髪入れずに小さくコクンと頷く。



  ーー初恋。
  それは、今日初めて明かされた胸の内。
  谷崎くんとのほろ苦い初恋を経験してきたからこそ、その意味が身に染みるほど理解している。



  理玖は愛里紗の肩から手を離すと、過去の自分を思い描く。



「中学に進学したての頃、毎日暗い顔して登校して来る奴がいた。……それが、お前。最初は学校が嫌いなのかなとか、人に言えないような悩みを抱えているのかなとか、色んな事を考えてた。でも、同じクラスになった時にその原因を知った。好きな奴が忘れられないという事をね」

「……知ってたの?」



  そう聞くと、理玖は無言でコクンと頷く。

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