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第四章
81.留守番していた理玖
しおりを挟むーー翌日、咲はテスト勉強を兼ねて学校帰りにそのまま一緒に私の自宅へ。
バイトを始めてから以前ほど頻繁に泊まりに来なくなった。
最後に泊まりに来たのは私の8月の誕生日の時。
その前は彼氏と付き合う前。
……そう、思い出した。
確かあの日は、私と同じ髪型にしたいって言われて髪を結ってあげたっけ。
ドレッサーの鏡に映る姿を見ていたら姉妹みたいだなって思ったよ。
しかもその日の夕方に告白しに行ったんだよね。
今でもしっかり覚えてる。
愛里紗達は自宅に到着して、いつも通りにインターフォンを鳴らした。
ピンポーン……
「ただいま! お母さん。咲を連れて来たよ」
インターフォンのマイクに向かってそう言い、咲と並んで母親が出てくるのを扉前で待ち構えた。
すると……。
ガチャ……
「おっかえり~! 遅ぇよ。ずっと待ってたのに」
玄関から出て来たのは母親じゃない。
何故か家に上がり込んでいる理玖が、帰宅したばかりの私達を出迎えた。
「ビッ……クリしたぁ~」
てっきり母親が出て来るものだと思っていたから、予想外の理玖の登場に驚いた。
「どうして理玖がうちにいるの?」
約束をしている訳でもないし、理玖と再会してから家に上げた事は一度もない。
だから、これが正直な感想。
すると、理玖は返事をせぬまま隣の咲に目を向けて軽く首を傾げた。
「ええっと……、咲ちゃんだったね。さっきインターフォン越しで名前を聞いたから思い出したけど、前にいつ会ったか忘れちゃった。今日もカワイイねぇ」
「やだぁ。恥ずかしいっ!」
「もう、咲にまでやめてよ。……で、今日はどうしたの?」
「あ、そうそう! 昨日塾でお前の問題集を間違って持って帰って来ちゃったから返しに来たけど。……その反応からして問題集がない事に気付いてないだろ」
「えっ! そんなの気付いてるに決まってるじゃん」
と言ってみたが、残念ながら塾セットは昨日からカバンの中に眠っている。
理玖は家で復習してるから気付いたんだろうけど、怪しげな返事で復習してない事がバレちゃったかな。
わざわざご丁寧に家まで届けに来るくらいだからね。
今日の理玖は私服姿。
高校は近所という事もあって、帰宅時間も早い。
電車を乗り継いで遠方まで通学している私とは雲泥の差。
だから、結構長い間帰りを待っていた可能性もある。
「問題集を届けに来たらお前はまだ帰って来てないし、おばさんは『理玖くん、ちょうど良かった。醤油買い忘れちゃったから、代わりに留守番お願いね。あの子は家の鍵を持ってないのよ』とか言って、俺を置いて買い物に行っちゃうし」
理玖は頭をポリポリかいて困り果てた顔。
私は驚くあまり開いた口が塞がらなかった。
お母さん、完全にどうかしてる。
最近、理玖と顔を合わせる機会が増えてきたからって、家に来たついでに留守番をお願いするなんて……。
有り得ない。
理玖は彼氏でもないのに。
だけど、言いつけを守って留守番してくれた事に違いない。
その場で断ればいいのにさ……。
愛里紗は申し訳なく思い、頭上で両手を合わせた。
「ごめんっ! わざわざ家まで届けてくれてありがとね。しかも、お留守番まで……」
「いーよ。テレビを観て暇潰ししてたし。問題集は机の上に置いといたからもう帰るわ」
理玖は咲の笑顔をチラッと見た後、そのまま玄関に降りようとする素振りを見せたが……。
ふと何かを思ったようにピタリと足を止めた。
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