上 下
78 / 226
第四章

76.やんわり断る彼

しおりを挟む



  ーー制服のブレザーの中にカーディガンを挟むようになった、ある日。
  放課後、一階の図書室へ借りていた本の返却に行った。

  来たついでに別の本を借りようと思って、窓際の腰までの高さの本棚前でしゃがみながら本を選んでいると、頭上の窓の向こうから人の話し声が降り注いできた。

  窓の向こうは畑。
  誰かが畑作業に来たのかなと思い、何となく窓を覗いてみると、そこには理玖と知らない女子の姿が。

  女子はソワソワした様子で落ち着きがなく、これから告白が始まりそうな雰囲気に。



  まさか、彼氏の告白現場に偶然居合わせるとは……。
  壁一枚挟んだ向こう側に自分が居る事がバレたらまずいと思って、なだれ込むように身を隠した。

  不幸中の幸いで図書室には自分以外三人しかいない。
  だけど、その三人中の三人が、物静かな図書室内で音を立てて身を隠しているうるさい私を白い目でじーっと見ている。

  ……まぁ、本人達にバレなきゃいい。



  理玖の告白現場は遠目から見た事はあったけど、声が聞こえるほどの至近距離は今日が初めて。

  一度気になると、とことん気になる。
  まるで探偵のように本棚からゆっくりと顔をあげて告白現場を覗き見する。
  自分でもいけないと思いつつも好奇心には勝てない。



「私と付き合って欲しいの。理玖を好きな気持ちは彼女に負けない自信があるよ」



  積極的に告白している彼女は、一度も同じクラスになった事のない、髪が長くて清楚な感じの子。

  図書室側に背中を向けている理玖と対面してる彼女が、一瞬チラッとこっちを見たような気がした途端、焦った私は反射的に本棚下へと身を隠した。
  すると、再び図書室内の三人から厄介的な目で見られてしまうが、一大事件が起きてる今は周りの事なんて気にしない。



  あー、ビックリした。
  覗き見している事がバレたかと思ったよ。



  心臓をバクバクさせながら本棚に背中に向けてストンと腰を下ろすと、背中越しに理玖の声が飛び込んできた。



「アイラちゃん、サンキュ」

「じゃあ私と……」



  彼女が期待に胸を膨らませながらそう言った瞬間、理玖は間髪入れずに言った。



「アイラちゃんってさ、超かわいくて性格が良いし。付き合ったら友達にめっちゃ自慢できるね」

「ええっ、うそぉ!  それなら……」


「だけど俺、今はその時期じゃないんだ。付き合えなくてゴメンね!」



  理玖はやんわりと断わると、彼女の頭をポンポンと二回軽く叩いた。
  私は胸をドキドキさせながらその様子を再び本棚の奥から見守っていた。

  彼女はフェイントがかかった返事に一瞬期待を寄せていたけど、ポンポンされた途端みるみるうちに赤面していく。
  見ている側まで、本気で好きなんだな~と思うくらいに。



「じゃあ、その時期が来たら私と付き合ってね。絶対だからね~!」



  理玖はうんともすんとも言わずに、にこやかに手を振って校舎へと戻って行った。

  取り残されてた彼女は泣いていないし、仕方ないなといった表情でふぅとため息をつく。
  まるで自分事のように一部始終を見ていた私は、理玖という人物が少しずつ解明されていった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

別れてくれない夫は、私を愛していない

abang
恋愛
「私と別れて下さい」 「嫌だ、君と別れる気はない」 誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで…… 彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。 「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」 「セレンが熱が出たと……」 そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは? ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。 その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。 「あなた、お願いだから別れて頂戴」 「絶対に、別れない」

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...