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第四章
70.元気のない咲
しおりを挟むーー塾の夏期講習が終了してから2日後。
空にはまだ夏の入道雲が残る中、いよいよ二学期がスタートした。
久しぶりに制服を着て、少し懐かしい教室の香りを無意識に嗅ぐ。
一学期最後の座席が何処だったか忘れてしまって記憶を遡りながら探した。
クラスメイトは、夏休み中の話題で盛り上がっている。
咲に夏休みの話題を面白おかしく話しても、話が耳に入っていないような空返事ばかり。
今日は元気がない。
時々フーッと声が漏れそうなほど深い溜息をついている。
先生が教卓に立っても、手元のシャープペンをクルクルと回して手元に目線を向けたままぼーっとした様子。
愛里紗は休憩時間に咲の元へ向かい、元気がない原因を探る事に。
「今日は元気がないよ? もしかして彼と何かあった? それとも両親がまた喧嘩したの?」
「ううん、何でもないよ」
「何かあったらいつでも相談にのるからね。遠慮なく何でも話して」
「うん、ありがとう」
該当しそうな要因をいくつか挙げてみたものの、当てはまるものは一つもない。
顔色があまり良くないし、語ろうとしない様子からすると、何となく話したくないのではないかと思った。
午前日課の為、日が高い時間に下校。
9月に入ったとはいえ、まだまだ日中の日差しは強くて焼け付くように暑い。
学校から一緒に帰っていた咲とは駅の改札を通り過ぎてからバイバイした。
今日は終始笑顔がない事がとても気になっていたが、必要以上に問い詰めなかった。
愛里紗と別れた咲は駅の階段を上ろうと足を踏み出した瞬間……。
突然背後から現れた誰かにグイッと手を強く引っ張られた。
「きゃっ!」
思わず悲鳴が飛び出す。
咲は胸をドキドキさせながらゆっくり振り向くと、そこにはおととい渋谷で会ったノグの姿が。
咲にとってノグは今一番会いたくない人。
そして、翔との関係を唯一知っている。
「駒井さん。話しようか。少し時間ある?」
「……うん」
厳しい目つきのノグに観念した咲は、額に汗を滲ませながら素直にコクンと頷いた。
先導するノグ。
そして、今にも逃げ出しそうなほど動揺している咲。
二人は上下線の階段に挟まれた駅構内のカフェに入った。
店内は窓側に並ぶカウンター席と、二人がけのテーブル席が十二席。
昼時という事もあって、サラリーマンやOLや学生などの客が入り混じっていて満席に近い。
ノグと咲はレジでそれぞれ紅茶をオーダー。
カウンターから紅茶を受け取って空いたばかりの席に座った。
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