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第三章
65.強引に手を引く理玖
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入学当初はブカブカだった制服は3年という歳月と共に少しばかし窮屈になった。
これは成長の証とも言える。
ーー今日は中学校の卒業式。
子供から大人への第一歩を踏み出す人生で大きな節目の日。
卒業式が終わって袴を着ている担任教師は真っ赤にしている目元をハンカチで押さえて教室で最後の別れの挨拶をした。
思わずもらい泣き。
この制服姿で仲が良い友達と学校で会えるのが今日で最後だと思ったら、急激に寂しくなった。
楽しい思い出だけが蘇ると目が腫れるまで泣き、水道の蛇口を開きっぱなしにしてしまったかのように鼻水が止まらない。
中学生生活最後の教室内は、まるで通夜のようにすすり泣く声だけが室内に響き渡っている。
両親には先に帰ってもらい、残りのわずかな時間を教室内で写真を撮ったり、友達と別れの挨拶をして有意義な時間を過ごした。
しかし、別れを惜しんでいる友達と校門を出た直後、ある事件が起こった。
「ゴメン! 愛里紗借してっ……」
背後から出現した理玖は愛里紗の友達にそう言うと、愛里紗の手を取って校舎へと逆戻りしていく。
友達との別れが中途半端のままになってしまった愛里紗は、急展開についていけない。
「……ちょっ、……どこ行くの?」
理玖は背中を向けたままダッシュで足を進ませる。
もう二度と戻る事のないと思った、中学校の下駄箱。
ズラリと並んでいる教室。
音楽室前の左側を曲がると、階段に差し掛かった。
静寂に包まれている校舎内に足音をパタパタと響き渡らせて、ぎゅっと手をつないだまま階段を一段一段駆け上がる。
ハァハァと息を切らした二人がようやく足を止めた先は、階段を上り詰めた先の屋上扉の前の踊り場。
「座って」
理玖はそう言って階段に腰を落とす。
卒業式から時間が経っているせいか、勿論人影はない。
「あ、うん……」
愛里紗は急展開に気持ちがついていけなかったが、言われた通り腰を下ろした。
しかし、卒業式の今日ですら二人きりという状況に慣れていない。
過剰に意識してしまっているせいか、口に重石が乗っかったように言葉が出ない。
階段の冷たい感触が身体を徐々に冷やしていく。
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