上 下
63 / 226
第三章

61.17回目の誕生日

しおりを挟む



  ーー今日は17回目の誕生日。
  理玖の母親が私の為にケーキを焼いたらしくて、塾帰りにそのまま理玖の家に直行した。

  実は今日、咲が夕方から泊まりに来る。
  私は午前中に塾があって、咲は昼過ぎまでバイト。
  それぞれ都合が合う夕方の時間帯に約束している。


  つまり、あまり時間に余裕がない。
  正直断りたかったけど、私の為を思ってケーキまで焼いてくれたので断る事が出来なかった。



  小学生の頃までは友達を家に招待をして誕生日を祝ってもらっていたけど、成長した今もあちこちで祝ってもらえるなんて幸せ者だね。

  理玖の家で昼食用に作ってもらった名前付きのオムライスをお米一粒も残さずにペロリと平らげる。
  久しぶりのおばさんの手料理は懐かしい味がした。



  食事を終えると、おばさんは手作りケーキをテーブル中央へ。
  ケーキはブルーベリーやラズベリーをギッシリ乗せてゼラチンでコーティングされている。
  チョコプレートには白のチョコペンで【愛里紗ちゃん お誕生日おめでとう】と書いてあった。



  うっ、本格的……。
  誘いを断らなくて正解だった。
  娘でもないのにここまでしてくれるなんて。

  ちなみに私の母はケーキは購入するタイプなので、手作りケーキなど一度も作ってくれた事はない。

  気遣い上手で料理上手な理玖のおばさんは、私にとって理想的な母親像だ。



  理玖はロウソクを次々とケーキに刺していき、母親は手際よくライターで火を灯した。



「さ、愛里紗ちゃん。ロウソクの火を一気に吹き消してね」



  理玖の母親は部屋のカーテンを閉めて室内を薄暗くした後、向かい合わせに着席している二人の間に座って、炎の明かりに照らされた顔を向けてそう言った。

  17歳になった今はさすがにバースデーソングは歌わず、シンプルに儀式が行われる。

  ケーキ上のロウソクは、大きいのが一本と、小さいのが七本。
  刺さっている大きいロウソク一本が増えてから、時間の進みが早くなったような気がする。



「ありがとうございまーす。それじゃ、遠慮なく」



  愛里紗は十七本のロウソクの火をグルリと首を捻りながら、フーッと力強く一度で吹き消した。



「すげぇ肺活量。ロウソクが一気に倒れるかと思った。……ってか、ケーキ本体が倒れそう」

「もーっ!  冗談はやめてよ~。今日は特別な日なんだからぁ。雰囲気台無し!」

「ウフフ。愛里紗ちゃん、誕生日おめでとう!  理玖、プレゼントを渡すなら今がチャンスよ」


「はっ……はぁっ?!  ……そんなの、用意してねぇし」



  理玖は動揺しながら少し迷惑そうにフンとふてくされた。
  おばさんと理玖はいつもこんな調子。
  今日も相変わらず仲がいい。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

カーテン越しの君

風音
恋愛
普通科に在籍する紗南は保健室のカーテン越しに出会ったセイが気になっていた。ふとした拍子でセイが芸能科の生徒と知る。ある日、紗南は喉の調子が悪いというセイに星型の飴を渡すと、セイはカーテン越しの相手が同じ声楽教室に通っていた幼なじみだと知る。声楽教室の講師が作詞作曲した歌を知ってるとヒントを出すが、紗南は気付かない。セイはお別れをした六年前の大雪の日の約束を守る為に再会の準備を進める一方、紗南はセイと会えない日々に寂しさを覚える。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

処理中です...