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第三章

57.チャラい理玖

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  昔はこの笑顔が好きだった。
  いつも明るくて誰にでも平等。
  人を笑わせる才能を持っていて、みんなを笑顔にしてくれる人気者の理玖が好きだった。



  春に再会した時はサイアクだって思っていたけど……。
  サイアクなのは理玖じゃない。

  逃げてばかりの私の方がサイアクだった。




  ーー翌日。
  昨日のテスト結果の成績順でクラスが決まり、塾の受付でクラスが伝えられた。



「ヤバイ、一番下のクラスだ……」



  まるで漬物石が乗っかったような重い足取りで伝えられた教室に入ると……。
  既に転々と着席している4~5人程度の生徒の中に理玖の姿があった。

  元彼とはいえ、イケメンをひと目で探す癖はそろそろやめた方がいいかもしれないね。

  だけど、中学の頃から比べると格段にイケメンレベルが上がっている。
  服装も個性的でオシャレだから、目が行くのも無理はない。



  愛里紗が教室に入ると、入室に気付いた理玖は席を立って愛里紗の目の前に行き半分嫌味を込めて言った。



「やっぱりな。俺は同じクラスだと思ったよ。……バカだな、俺とお前」

「『やっぱりな』じゃないでしょ……。失礼ね」



  理玖は指をさしてケタケタと笑い、愛里紗は眉をひそめてプーッとホッペを膨らませた。



  思い出した。
  中学生の頃はいつもこんな風にふざけていた。
  塾に入る前は、知り合いがいるかどうかわからなくて不安でいっぱいだったけど……。

  良かった。
  理玖と同じクラスで。



  昨日、理玖が二人の壁を取り払ってくれたお陰で気持ちは楽になっていた。
  シーンとした教室内で昔話に花を咲かせると、思い出に浸りながらバカみたいにはしゃいでいた。




  ーーところが、数日後。
  愛里紗が教室に入る手前から、男女の賑やかな会話が廊下まで響いていた。



「やだ~っ。橋本くんったら~」

「嘘じゃないってぇ。マジでカワイイって」

「ホントに~?  ねぇ、どんな所が?」



  愛里紗は教室内に入ると、既に着席している理玖は後部座席の知らない女子とじゃれあっていた。
  ナンパ調の軽いノリにポカンと開いた口が塞がらない。



  理玖とは久しぶりに会ったけど……。

  やっぱり始まった。
  奴のチャラいクセが。



  理玖は軽いタッチから会話に入る。
  それがいい所であり、悪い所でもある。
  私自身も饒舌じょうぜつなトークに騙されてしまったのだろうか……。



「あ、来たきた。……よっ、愛里紗」

「あんたさぁ、未だにナンパしてるの?」



  愛里紗は冷ややかな目つきを向けると、理玖は鼻高々と自慢気に言った。



「ま、挨拶程度って感じ」

「自慢かよっ」



  もう……。
  知らない女の子とすぐ仲良くなっちゃって。
  相変わらずチャラいなぁ。



  愛里紗は隣に着席すると、理玖は突然何かに閃いて目を輝かせた。



「ねぇねぇ、久しぶりに俺んちに来ない?  一緒に勉強しよう」

「今日は予定がないから行ってもいいよ」


「よっしゃ。……じゃ、決まり。後で家に連絡するわ」



  一見、恋人でもないのに男の家に遊びに行くなんて……と思われがちだけど、実は理玖の母親と仲が良かった。

  当時は、グループ交際をしている仲間内でよく家に押しかけていた。
  それぞれの家を転々として遊びに行っていたけど、一人っ子の理玖の家にお邪魔する事が一番多かったかも。



  理玖のおばさんは、明るくて面白くて個性的。
  息子が血を丸々受け継いでるのがよくわかる。

  中学の頃は理玖の家の明るい雰囲気が好きだったなぁ。
  久々におばさんに会いたいよ。

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