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第三章

55.ずっと親友

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  咲は他の男子に色目なんて使ってないのに、あの子達はよく知らないから好き勝手言ってるだけ。


  そう言えば、先日ノグから一組の子達が咲の悪い噂をしてたよって聞いたばかり。
  直接噂話を耳に入れるまで、ここまで酷いものだと思わなかった。



「咲の悪口やめてくれない?」



  腹わたが煮え繰り返ってたせいか、気付いたら扉の横に立っていた。

  相手は三人。
  強気な態度に出たけど内心怖い。
  こうした事によって自分も標的になる可能性はあるけど、それ以上に咲を守りたい。



「咲の何が悪いの?  あなた達に何か嫌な思いをさせたの?  ……咲の事を何も分かってないクセに悪口なんて許せない」



  正義感満載の愛里紗を視界に捉えた三人組は、バツが悪そうにお互いの顔を見合う。



「マジ?」

「やっべ……」



  彼女達は廊下で何度か見た事ある程度。
  名前とか全く知らない。
  だから、初っ端から喧嘩腰で突っかかって行くのはかなり勇気が必要だった。



「陰でコソコソ悪口を言わないで直接本人に言えばいいじゃん!  それに、咲は男子に色目なんて使ってない。勘違いしてるのはあなた達の方なんじゃないの?」



  愛里紗は握り締めた拳を震わせながらも、言いたい事を伝えた。
  ところが、三人組は謝ったり反省するどころか、不機嫌な表情のまま付近に置いてある荷物を持って愛里紗の方へ足を進める。



「ばっかじゃねーの」

「友情ごっこかよ」

「あーあ。ご馳走様ですぅ」



  三人組はすれ違いざまに次々と捨て台詞を吐いて教室から出て行った。
  愛里紗は煮え切らない気持ちのまま悔し涙を浮かばせて扉横に佇む。



  ーー同日の夜、ノグに電話。
  噂の件はノグが教えてくれたから、相談するのはノグしかいないと思っていた。



「許せないね。悪口を直接聞いた愛里紗も辛かったんじゃない?」

「私はいいんだけど……。咲の耳に入らなくて良かった」



  ノグは最近悪口の原因について情報入手したようで教えてくれた。

  三人組のうちの二人は咲と同じ中学出身で、その中の一人が咲に想いを寄せていた男子にフラれたとか。
  それが原因で、やり場のない怒りの矛先を罪のない咲へ向けたらしい。
  特に甘えん坊な性格が目についたようで悪い噂を流し始めた。

  勿論、咲は誰にでも色目を使うような計算高い性格ではないと知ってるので、余計腹が立った。




  ーー翌朝、愛里紗が一組の三人組に一喝したという噂は、回りに回って咲の耳に入った。
  登校したばかりの咲は、教室に入った途端一目散に愛里紗の元へ。



「愛里紗……、噂を聞いたよ。昨日、私の悪口を言っていた子に注意してくれたんだってね。ありがとう……」

「だって、親友の悪口言われたら誰だって嫌でしょ。気分悪かったからついカッとなっちゃったよ」



  平然とした口調でそう言ったけど、実際は怖くて足がガタガタ震えてたけどね。
  すると、咲は感無量になって口元を震わせながら気持ちを吐き出した。



「……愛里紗。だーい好き!  ずっと親友でいてね。約束だよ!」



  咲はガバッと開いた腕を回して愛里紗に抱きつくと、愛里紗も咲の背中に腕を回してギュッと抱きしめた。



「ずっと親友だよ。約束ね」



  咲は特別な存在。
  毎日生み出してくれる笑顔にいつしか支え続けられていた。
  私にほんの些細なアクシデントが訪れても、咲は自分の事を後回しにしちゃうほど心配してくれる。
  そして、いつも傍に居てくれる。

  だから私は強くなれた。




  ーー愛里紗達は一学期の終業式を終えて通信簿を受け取ると、長い長い夏休みへと突入した。

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