上 下
36 / 226
第二章

34.ミクのエール

しおりを挟む



  ーー今日は二学期の終業式。
  担任が冬休みの過ごし方について説明を始めて、来年の始業式の時の持ち物を黒板に書き綴っていると……。
  小さく折られた手紙が友達を通して回ってきた。

  早速、手紙を開けてみると、小さな文字で《あーりんへ 終業式が終わったら、大事な話があるから体育館前に来てね。 美玖より》と、書いてあった。

  彼女とは日常的に話すような間柄ではない。
  急な呼び出しに首を傾げながらも、終業式が終わってから約束の場所へと向かう。



  待ち合わせの場所で先に待ってたミク。
  後から到着すると、彼女は目を潤ませながら頭を下げた。



「あーりん、ゴメンなさい」



  目が合ったと同時にいきなり頭を下げられたので、正直戸惑った。



「えっ、何?  急にどうしたの?」

「一学期にあーりんの上履き隠したのは私なの。謝るのが遅くなったけど、本当にゴメンなさい」


「えっ、どうして今更上履きの話を……」



  衝撃的な展開に驚きつつも、上履きを隠すには何らかの理由があるんだと思って聞く事に。



「実は私、谷崎くんが好きだったの」

「うん……」


「あーりんが谷崎くんと仲良さそうにしている姿を見てたら羨ましくて……。あーりんの事が嫌いな訳じゃないけど、上履きを隠せば困るかなと思って」
 
「……」


「だって谷崎くん、女子とはマトモに話そうとしないし、女子の中ではあーりんにしか笑わないし」

「えっ、それはミクの思い違いだよ。谷崎くんはよく笑ってるよ?」


「まさか、あーりん気付いてないの?」



  ミクは愛里紗の鈍感さに目をパチクリさせた。



  ミクったら、谷崎くんが私にしか笑ってないって話が少しオーバーだなぁ。
  神社では勿論、学校でも目が合う度に微笑んでくれる。



  愛里紗は翔が笑顔でいるのが日常化していたせいか、ミクの話が少し大袈裟に思えた。



「誰が見ても分かるけど、谷崎くんはあーりんの事が好きだよ」

「まさか……」



  話を受け入れない愛里紗に対して、ミクは不思議そうに首をかしげた。



「気付いてるかもしれないけど……。私、修学旅行で谷崎くんに告白したの」

「うん、知ってる」


「あーりんが引っ越してくる前から谷崎くんが好きだったから、修学旅行が最後のチャンスだと思って心を決めたの。でも、ダメだったけどね……」

「……」


「谷崎くんだけを見てきたから私にはわかるの。あーりんが来てから谷崎くんはすごく変わったよ」



  愛里紗はさっきまで冗談だと思って否定気味に聞いていたが、力説している瞳に心が刺激されていく。



「上履きの件をずっとあーりんに謝らなきゃいけないと思っていて。あの時は傷付いただろうし、私自身も名乗り出る勇気がなくて、モヤモヤして苦しくて……」



  ミクは涙を浮かべ胸に手を当てて精一杯の気持ちを込めながら辛かった想いを吐き出した。
  愛里紗は気持ちが伝わると、先程まで微動だにしなかった心が揺さぶられていく。



「上履きは翌日に返してくれたじゃん」

「でも……」


「もう怒ってないよ」



  私は許さない強情さよりも、許す寛大さを選択した。

  確かにあの時は嫌な思いをしたけど、ミクも苦しい想いを抱え続けていたから、この件は終わりにしようと思った。



  ミクは安心したように瞳に溜まっていた涙が溢れ落ちた。
  顎へ流れ落ちる涙の一粒一粒は、苦しかった気持ちを洗い流しているシャワーのよう。



「本当にゴメンね」

「いいよ」



  和解してから花壇のレンガに腰をかけて少し話しているうちにミクの気持ちが落ち着いていくと、ミクは告白した時の話をした。



「谷崎くん、好きな人がいるって言ってた。私にはその好きな人が誰だか分かってたけどね」

「……」


「もし、あーりんが本気で好きなら味方になりたい」

「えっ、でも……」



  ミクは膝に置いている愛里紗の手をギュッと握りしめると、気迫ある目つきで見上げた。



「頑張って!  二人は絶対上手くいく。私はあーりんを応援する。谷崎くんにはずっと笑っていて欲しいから」



  そう言って、ミクは二人の恋にエールを送った。
  翔との関係が回復して気持ちが前向きになり始めている愛里紗に追い風を送ったのは、ライバルの存在ミクだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

さよなら私の愛しい人

ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。 ※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます! ※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

元彼と私の母が付き合っているみたい

ほったげな
恋愛
私は先日、彼氏と別れた。その彼と母が仲良く買い物している姿を目撃してしまった。

処理中です...