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第二章
34.ミクのエール
しおりを挟むーー今日は二学期の終業式。
担任が冬休みの過ごし方について説明を始めて、来年の始業式の時の持ち物を黒板に書き綴っていると……。
小さく折られた手紙が友達を通して回ってきた。
早速、手紙を開けてみると、小さな文字で《あーりんへ 終業式が終わったら、大事な話があるから体育館前に来てね。 美玖より》と、書いてあった。
彼女とは日常的に話すような間柄ではない。
急な呼び出しに首を傾げながらも、終業式が終わってから約束の場所へと向かう。
待ち合わせの場所で先に待ってたミク。
後から到着すると、彼女は目を潤ませながら頭を下げた。
「あーりん、ゴメンなさい」
目が合ったと同時にいきなり頭を下げられたので、正直戸惑った。
「えっ、何? 急にどうしたの?」
「一学期にあーりんの上履き隠したのは私なの。謝るのが遅くなったけど、本当にゴメンなさい」
「えっ、どうして今更上履きの話を……」
衝撃的な展開に驚きつつも、上履きを隠すには何らかの理由があるんだと思って聞く事に。
「実は私、谷崎くんが好きだったの」
「うん……」
「あーりんが谷崎くんと仲良さそうにしている姿を見てたら羨ましくて……。あーりんの事が嫌いな訳じゃないけど、上履きを隠せば困るかなと思って」
「……」
「だって谷崎くん、女子とはマトモに話そうとしないし、女子の中ではあーりんにしか笑わないし」
「えっ、それはミクの思い違いだよ。谷崎くんはよく笑ってるよ?」
「まさか、あーりん気付いてないの?」
ミクは愛里紗の鈍感さに目をパチクリさせた。
ミクったら、谷崎くんが私にしか笑ってないって話が少しオーバーだなぁ。
神社では勿論、学校でも目が合う度に微笑んでくれる。
愛里紗は翔が笑顔でいるのが日常化していたせいか、ミクの話が少し大袈裟に思えた。
「誰が見ても分かるけど、谷崎くんはあーりんの事が好きだよ」
「まさか……」
話を受け入れない愛里紗に対して、ミクは不思議そうに首をかしげた。
「気付いてるかもしれないけど……。私、修学旅行で谷崎くんに告白したの」
「うん、知ってる」
「あーりんが引っ越してくる前から谷崎くんが好きだったから、修学旅行が最後のチャンスだと思って心を決めたの。でも、ダメだったけどね……」
「……」
「谷崎くんだけを見てきたから私にはわかるの。あーりんが来てから谷崎くんはすごく変わったよ」
愛里紗はさっきまで冗談だと思って否定気味に聞いていたが、力説している瞳に心が刺激されていく。
「上履きの件をずっとあーりんに謝らなきゃいけないと思っていて。あの時は傷付いただろうし、私自身も名乗り出る勇気がなくて、モヤモヤして苦しくて……」
ミクは涙を浮かべ胸に手を当てて精一杯の気持ちを込めながら辛かった想いを吐き出した。
愛里紗は気持ちが伝わると、先程まで微動だにしなかった心が揺さぶられていく。
「上履きは翌日に返してくれたじゃん」
「でも……」
「もう怒ってないよ」
私は許さない強情さよりも、許す寛大さを選択した。
確かにあの時は嫌な思いをしたけど、ミクも苦しい想いを抱え続けていたから、この件は終わりにしようと思った。
ミクは安心したように瞳に溜まっていた涙が溢れ落ちた。
顎へ流れ落ちる涙の一粒一粒は、苦しかった気持ちを洗い流しているシャワーのよう。
「本当にゴメンね」
「いいよ」
和解してから花壇のレンガに腰をかけて少し話しているうちにミクの気持ちが落ち着いていくと、ミクは告白した時の話をした。
「谷崎くん、好きな人がいるって言ってた。私にはその好きな人が誰だか分かってたけどね」
「……」
「もし、あーりんが本気で好きなら味方になりたい」
「えっ、でも……」
ミクは膝に置いている愛里紗の手をギュッと握りしめると、気迫ある目つきで見上げた。
「頑張って! 二人は絶対上手くいく。私はあーりんを応援する。谷崎くんにはずっと笑っていて欲しいから」
そう言って、ミクは二人の恋にエールを送った。
翔との関係が回復して気持ちが前向きになり始めている愛里紗に追い風を送ったのは、ライバルの存在ミクだった。
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