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第二章
28.会いに来た愛里紗
しおりを挟むーー修学旅行から帰って来てから、今日で三日目。
谷崎くんとミクのその後が気になるばかり、土日の間も部屋にこもって泣いた。
でも、気は晴れる事はなく、散々泣き腫らした目はとても熱く重く感じている。
修学旅行から帰宅するなり閉ざした部屋で泣きこもる娘に母親は心配しつつも、そっとしておく事に。
ミクが谷崎くんに告白したのは、12年間の中でトップニュースになるほどショッキングな出来事だった。
嫉妬と不安の狭間で気持ちが揺れ動いていたけど、無情にもいつも通りの日常生活がそこに待ち受けている。
重い足取りで登校したけど、丸一日学校で過ごしていても告白結果が見えてこない。
谷崎くんもミクも普段通り。
休み時間は友達と一緒に過ごしているし、誰一人ミク達の噂話をしていない。
一瞬、噂は聞き間違いではと思ってしまうほど静かで穏やかな一日だった。
谷崎くんの気持ちが不透明な分、結果が気になる。
でも、自分は何もしないまま泣いてばかり。
ミクは勇気を出して頑張ったのに、私は後ろ向き。
こんなに思い詰めるくらいなら、自分も悔いなく頑張らないと。
そう、その調子。
私の恋はまだまだ頑張れる。
ウジウジ悩んでないで、谷崎くんと直接気になっている事を聞けばいい。
そして、私もミクのように勇気を出して想いを伝えないと。
気持ちを奮い立たせた愛里紗は学校から帰宅して部屋に荷物を置いてから、翔と二人きりで話す為に神社へ向かった。
谷崎くんに告白……。
私にもできかな。
そんな勇気を持ち合わせているのかな。
でも、いま気持ちを伝えないと何故か私達の関係がダメになってしまうような気がしてならない。
ミクに谷崎くんを取られたくない一心なせいか、少し気焦りしていた。
靴が脱げそうなほどの勢いで神社へ走った。
心臓がバクバクと鼓動を打ち、神社に到着してから深呼吸を繰り返して乱れた呼吸を整えてもなかなか落ち着かない。
告白を決意した愛里紗は鳥居前で恐怖と不安と戦いながらソワソワしていると……。
神社の角からポケットに手を突っ込みながら渋い顔をしている翔がやって来た。
愛里紗は翔が一歩一歩近付いてくる度に緊張で震えが止まらない。
どうしよう……。
谷崎くんがこんなにすぐ来ると思わなかったから、まだ心の準備が……。
今更だけど逃げちゃう?
見つからなければ告白は引き返せるかも。
ううん、ダメ。
いま逃げたら後悔する。
谷崎くんとしっかり向き合わなければ心にしこりが残ったままになってしまう。
愛里紗は心の中で葛藤を繰り返してオロオロしていると、接近してくる翔とバッチリ目が合う。
翔は久しぶりに神社に訪れる愛里紗を見た瞬間、ハッと目を見開いた。
「江東……」
噂が始まったあの日以来、愛里紗の足が神社から遠退いていたから驚くのも無理はない。
愛里紗は緊張で意思通りに手足が動かない。
飲み込んだはずの唾は喉の奥に流れていく感覚がないし、髪の毛が逆立っているかのように気が張っている。
それでも気持ちを伝えたくて、漬物石が乗っているかのように重くなっている足を進ませて翔の正面に立った。
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