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第二章
17.彼の笑顔の為に
しおりを挟む初めて会話を交わしたあの日から、彼に会う目的で毎日のように神社へ通い詰めた。
下校後に神社に行けば必ず彼に会えるから毎日楽しみで仕方ない。
神社へ足を運んでいるうちに彼が慕っているおじいさんとも仲良くなって、今日は家の縁側でお茶をご馳走に。
「あの子は寂しい子なんじゃ……」
彼が鯉に餌をあげてる姿を遠目で見守っている間に隣に腰を下ろしたおじいさんは、彼について語り始めた。
「彼の父親は外に女を作って出て行ってしまったとか。母親は家計を支える為に朝から晩まで働いていてほとんど留守に。だから、母親が帰宅するまでいつも一人で過ごしているんじゃ。せめて兄弟でもいればまた違っていたと思うんじゃが……」
「……そう、だったんですか」
おじいさんから彼の家庭事情を知らされると、一人ぼっちで家に閉じこもる彼の姿を思い浮かべた。
おじいさんは目を細めながら愛里紗の表情を一つと見逃さないように見つめて話を続けた。
「実は口実を作って毎日ここに来るように言っておるんじゃが……。こんな事で心が満たされるとは思っとらん。愛里紗ちゃんが来てくれるようになってから、あの子にも笑顔が増えたような気がするんじゃが……」
「……どうですかね」
「だから、あの子の為にも引き続き神社に遊びに来てくれると嬉しいのぅ」
おじいさんはシワシワの口元を緩ませると、何かを思い描くような遠い目で空を見上げた。
両親がいつも仲良く笑って過ごすのが、当たり前だと思っていた。
自分の家庭を基準にしていたから、他の家庭もそうなんだと勝手に決めつけていたところがあったのかもしれない。
だから、彼の家庭事情を知ってショックを受けた。
でも、私が神社に遊びに来る事によって彼に笑顔が増えるならいま出来る事は一つ。
「おじいさん。私、毎日必ず来ます! 谷崎くんに会いにこの神社へ」
愛里紗は胸に手を当てて勇敢な目つきでそう言うと、おじいさんは穏やかにコクリと頷いた。
池で餌やりを終えてから二人の元へやって来た翔は、自分の話をされていたとも知らぬまま無邪気な笑顔を向けた。
「江東! いま池の中から亀が出てきたよ」
「うそぉ。いま行くね!」
愛里紗は活気ある笑顔の裏側に孤独な一面を持ち合わせているかと思うと、胸にグッと込み上げるものがあった。
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