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第一章

3.恋する乙女

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  ホームルームが終わって一緒に帰ろうと思い、机の中の荷物を鞄へ移してしてる最中の咲に声をかけた。



「咲、一緒に帰ろっ!」



  普段は愛想がいい彼女だけど、昨晩から浮かない表情のまま元気ない口調で言った。



「ごめん……。今日は大切な用事があって」

「そっかそっか、用事があるなら仕方ないよね。じゃあ、先に帰るね。バイバイ」


「うん、バイバイ……」



  昨晩、今朝、そして今。
  再三に渡って異変を感じたけど、問い詰めなかった。

  ーーだけど、翌日。



「実は昨日彼氏が出来たよ」



  咲は登校直後に嬉しそうな表情。
  その様子は昨日とはうって変わって晴々しい。
  昨日は意中の彼に想いを告げる為に心の準備をしていたのかなと思った。


  咲の片想い歴は長い。
  中学生の頃から想いを寄せている人に告白しては振られ、告白しては振られと負の連鎖を繰り返していて、高校入学後も一途に追いかけていた。

  しかし、長年の想いがようやく届いて幸せそうな様子を見ていたら、私も自分の事のように嬉しくなった。



「前々から話してた例の彼だよね?  良かったじゃん!  おめでとー!」

「……あ、うん。……えへへ」



  頬を赤く染めて可愛く照れ笑いをする咲の手を取って彼氏誕生に喜び合った。



  咲は自慢の友達。
  女の子らしくて可愛くて優しくて思いやりがある。
  だから、彼氏は咲の良い所に気付いてくれたんだね。


  泊りに来た時に髪のセットをお願いしたのは、私に気合いを入れて欲しかったのかな。
  こんな私でも少しだけ恋のお手伝いが出来たのかもしれないね。

  いいな……。
  恋をするとキレイになれるって、噂だと思っていたけどホントなんだね。



「愛里紗も早く彼氏が出来るといいね!」

「私は別に……」



  新しい彼氏に咲を取られた感じでちょっとヤキモチ妬いてるけど、実は小学生の頃だけじゃなくて、中学生の頃にも交際していた彼がいた。



  ーーあれは、中学生の頃。
  仲良し女子三人組のうちの二人が、男子三人組の二人と順々にカップルになっていき、自然と男女計六人のグループが誕生した。
  下校後や休日も互いの家で遊んだり、電車に乗って遠出をしたり。

  でも、二組のカップルに挟まれるように取り残された私とひとり者の彼は、何となく周りに影響されて、自然とペアで行動する事が多くなって次第に親密度が増した。


  彼は性格が明るくて人懐っこいタイプ。
  だから一緒にいると楽しかった。

  谷崎くんを忘れなきゃいけないと思う反面、グループの雰囲気を壊したくなくて彼の告白を受け入れてグループ交際の一員に。


  でも、六人で一緒にいる時は楽しいんだけど、彼と二人きりになると何故か気まずい雰囲気に。
  その理由は最後まで分からなかった。


  私が受験に失敗したせいもあって彼とは別々の高校に。
  卒業を機に連絡を取らなくなった。

  だから、彼が今どうしてるかわからない。
  家は近所だけど、地元で一度も鉢合わせなかった。




  ーー咲の両親は仲が悪い。
  聞くところによると、両親はお互い顔を合わせる度にケンカをするとか。

  ケンカがエスカレートすると室内で罵声が飛び交うらしい。
  一年近くもそんな状況が続いているようで、彼女は常に心に爆弾を抱えている。


  辛い気持ちを吐き出してくれた日は彼女の肩を寄せる日。
  涙が枯れ果てた頃に可愛らしい笑顔は少しずつ取り戻していく。

  家に心の行き場がないのなら、親友の私が心の行き場になれればいいなと思っていた。

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