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第八章
61.現れない彼
しおりを挟むーー夜6時50分。
場所は滝原くんと約束しているスーパーの前。
薄暗い空に覆われる中、白いワンピースでおしゃれをしてきた私は約束の10分前に到着していた。
そわそわしてるせいか、1分おきに腕時計を確認する。
早く会いたくて……。
会いたくて、会いたくて。
1人で待っている時間さえ愛しい。
今日は誕生日だけど、滝原くん以外の人には言わなかった。
その理由は、これ以上素敵な思い出を残してしまったら人間界から離れたくなくなってしまうから。
でも……。
15分経っても彼は現れなかった。
どうしたのかなと思って電話をかけてみたけど繋がらない。
ここから彼の家は近いけど、入れ違いになったら嫌だと思って待ち続ける事に。
ーーしかし、1時間経っても状況は変わらず、がっくりと肩を落としたままスマホでメッセージを書いていると……。
「滝原くんなら来ないわよ」
正面から声が届いた。
見上げるとそこには河合さんの姿が。
「河合さんどうして……」
「今さっき滝原くんの家へ行ったの」
「えっ……」
「これがどういう意味かわかるわよね」
彼女は挑発的な上目遣いでニヤリと微笑む。
「まさか吸血を……」
「今日があなたのミッション最終日。あなたは二つの選択肢のうちの一つを選ばなければならない。ヴァンパイアの自分を守るか、彼の命を守るか」
「……酷い。私の期限を知りながら吸血をするなんて」
「たっぷり時間があったのにノロノロしてる方が悪いのよ。自分を追い込んだのは自分自身よ。恨むなら自分を恨むといいわ」
彼女は冷たくそう言いながら去って行った。
私は想定外の事態に気持ちがついていけない。
滝原くんは河合さんに吸血された後に倒れちゃったのかな……。
昨日、私が吸血した後も少しずつ意識が遠退いて最後は眠ってしまったもんね。
だから、さっきから何度連絡しても繋がらないの?
もし、そうならうかうかしてられない。
滝原くんの家に行って様子を見ないと……。
私は身体の無事を祈りながら彼の家へ走り向かった。
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