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第六章

47.予想外な真実

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  ーー翌朝の午前4時0分。
  俺は慣れない環境にふと目が覚めてホテルの部屋のカーテンを開けて明るくなり始めている窓の外を見ていると、1人の女性がすぐ向かいの川にひざまで浸かって前屈みで何かをあさっていた。
  目を凝らしてみると、その人物が判明する。



「あれは……、美那?  こんな早朝から何やってっ……」



  俺は我を忘れたかのように部屋を飛び出して川辺の美那の元へ向かった。



「美那ーーっ!」



  青々とした森林の香りに包まれながら川の手前から大きな声で名前を呼ぶが、彼女は膝までの水に足を浸かせながら耳を貸さずにヴァスピスを探し続ける。
  俺はバシャバシャと水しぶきを立てて美那の元へ。

  しかし、彼女の腕を掴んだ瞬間異変に気づく。



「美那……。ねぇ、どうして虹彩が赤いの?  赤いコンタクトでもしてるの?」

「……」


「それに耳が尖ってる……。一体どーゆー事?  説明してくれる?」



  美那はヴァスピスを紛失してから時間経過と共に少しずつヴァンパイア姿に戻りつつあった。
  隠しきれない現実に思わず口を塞ぐ。



「何か事情があるの?」

「……」


「隠し事はやめて素直に話して欲しい。俺らは友達だから……」



  美那は逃げも隠れも出来ない状況に直面すると、重く閉ざしていた口を開いた。



「……実は私、人間じゃないの。ヴァンパイアなの」

「えっ……」


「黙っててごめんなさい」



  美那の左目から一粒涙がこぼれ落ちると、俺は言葉を失った。



「私の誕生日は7月7日。つまり、約3週間後には16歳になる。ヴァンパイア界の成人は16歳で、その成人を迎えるにはあるミッションを達成させなければならないの。私はそのミッションを行う為に人間界にやって来た」

「嘘……だろ…………」


「ううん。嘘じゃない。本当なんだ」

「それで、そのあるミッションとは?」


「誕生日までに滝原くんに三回吸血する事」

「お……俺に吸血を?」



  美那は目を横に流して気まずそうにコクンとうなずく。



「滝原くんは私のターゲットに選ばれてしまった。そしていま探しているのはヴァスピスという指輪。この指輪はただの指輪じゃなくて、魔力を制御したり、ミッションを達成した時にハートが1つずつ赤く点灯したり、達成データが司令部に送信されたり、達成完了後にはヴァンパイア界に引き戻してくれる効果がある命の次に大切なものなの。……肉親の形見と言ったのはウソなの」

「……指輪が大切なものという事はわかったけど、もしミッションが達成出来なかった場合は?」


「ヴァンパイアではいられなくなっちゃうの。おそらくコウモリに姿形を変えられてしまうかもしれない。だから、生き抜く為にはあと二回吸血しなきゃいけないの」



  彼女の言い分は理解した。
  しかし、”あと二回”という言葉に引っかかった。



「ちょっと待って。いまさっき誕生日まで俺に三回吸血すると言ってたけど、どうしてあと二回なの?」


「それは……」

「それは?」



  美那は視線を斜め下に落としてつばをごくりと飲んでから言った。



「もう、一回吸血したから……」

「えっ!  ……ちょっと待って。身に覚えがないんだけど……。それっていつ?」


「4月に滝原くんが保健室で休んでた時。……隠しててごめんなさい」



  彼女は申し訳なさそうに深々と頭を下げた。
  俺は受け入れられない様子で額に手を当てながら佇んでいると、彼女は再び水面に手を突っ込みながらヴァスピスを探し始めた。
  その行動が事の深刻さを表していた。

  俺は返事をしないまま場所を移動して川の中に手を突っ込んで岩をどけ始めた。



「滝原くん……、どうして」

「指輪は命の次に大切なものなんだよね」


「うん……」

「だったら、川で捜索している所を他の人達に見つかる前に探さないと。みんな心配するだろうし、ヴァンパイアの姿を見られたくないと思うから」


「ありがとう……」



  2人は話を一旦やめて再び小石や岩をどけながらヴァスピスを探した。
  お互いいろんな想いを抱えながら……。


  川の流れは昨晩より落ち着いて水位も少し下がっている。
  キラリと光る物体があれば手を突っ込んで取り出す。
  それが指輪じゃないと判ると再び目視を始めた。
  上流から流れてくる木の葉が時より足に引っかかってくるが、水面から目線を外さずに探し続けた。


  ーーそれから、およそ35分後。
  夏都は岩と小石の間にきらりと光るものを発見した。
  水中に真っ直ぐ手を落としてつまみ上げると、それは以前美那が家に忘れた指輪という事が判明する。



「……あった!  これだよね。美那が探してる指輪って」



  夏都はバシャバシャと水しぶきをあげながら5メートル先の美那の傍に行って指輪を差し出した。
  美那は両手で受け取ってキラリと光る指輪を確認する。



「うん、この指輪……。朝日が昇る前に見つかって良かった……。もし、日が出てしまったら私は……」



  美那はすかさず右薬指に装着すると一瞬だけほんわりと身体が光った。
  安心するあまり涙が顎に滴っていく。
  俺は彼女の現実を目の当たりにすると、かける言葉が見つからなくなってホテル側に身体を向けて歩き始めた。
  すると、彼女は俺の背中に向かって叫んだ。



「滝原くんっ!  ……見つけてくれてありがとう」



  だが、『ありがとう』という言葉は受け入れられず、振り返らぬまま砂利道を踏み締めて行った。



「嘘だろ……。美那っちがヴァンパイアだったなんて……」



  付近の小屋に身をひそめて聞き耳を立てていた怜は、衝撃的な事実を目の当たりにしていた。

  ーー今から35分前。
  怜は美那の行方不明事件が心に残って一晩中寝付けなくて、日が上り始めてる頃に部屋のカーテンを開けると……。
  ホテルの入り口から一直線に川へ走り向かっている夏都に気付いた。

  異変を感じた瞬間、部屋を飛び出して夏都と同じように川へと向かったが、夏都はかがみながら川で何かを探している美那と何かを話していた。
  よく見ると、美那の姿は人間からかけ離れている。

  会話の内容からヴァンパイアと知り、信じられない気持ちと葛藤しながら腰をその場に落として時より2人の様子を眺めていた。


  思い返せば、ヴァンパイア特有の気になる点があった。
  十字架のネックレスを嫌がっていた事や、にんにくが苦手な事。

  その時は何も考えずにやり過ごしていたが、美那の口からヴァンパイアと明かされた上に姿形が近づいてる所を目の当たりにすると決定打が下された。

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