上 下
14 / 66
第二章

13.血の香り

しおりを挟む


「あっ……ぶねっ!」

  ズサーッ……


  滝原くんは私の頭上でサッカーボールをキャッチした後、地面に身体が叩きつけられた。
  私は砂埃すなほこりが舞う中、その隙間から心配の目を向けてかがむ。



「滝原くんっ!  大丈夫?」

「……うん、佐川さんは?」


「大丈夫だけど……。私にボールが当たりそうなところを救ってくれたの?」



  そう聞いた途端、ジャージをまくり上げている左肘の怪我に気付いた。



「どうしよう!  大変……。滝原くんのひじりむけて血が出てる」

「あっ、ホントだ」


「保健室行かなきゃ。私が一緒に……」
「いいよ。1人で行ってくるから」
  


  彼はスクっと立ち上がると、生徒と一緒にボールの準備をしている教師に伝えて校庭を後にした。


  心配する反面、漂ってきた血の香りに反応してしまった。
  それが、とても美味しそうな香りだったから、思わずゴクリとつばを飲み込んだ。

  彼は私がボールに当たらないように助けてくれたのに。
  本当は感謝しなければならない立場なのに、この瞬間からビクンビクンと身体が揺れ動くくらいヴァンパイアの血が騒ぎ出していた。

  こんな経験、初めての事。


  準備が完了すると、最初は男子の練習試合が始まった。
  女子は校舎前のコンクリートの段差に座って雑談をして試合を見ていない人が多かったけど、男子の熱意ある声がけに気付き、次第に1人1人の目がコート内に吸い寄せられた。
  中でも一際目立つプレーをする生徒が。

  ーーそれが、怜くん。

  1人、2人と立ちはだかる相手チームの選手を隙をついてドリブルで突破。
  観客を惹きつける多彩なテクニックに華麗なシュート。
  ゴールを決める度に、拳を握りしめたまま肘を引いて「よっしゃーー!」と声を張って喜ぶ。


  澪が怜くんのプレイに釘付けになっている時に異変に気付いた。
  試合を見てると言うより怜くんを目で追ってると言っても過言じゃないほど、ケンカしてる時に見られないような優しい眼差しを向けていた。

  もしかしてという想いがあったけど、言わなかった。
  その理由は、カレンダーをめくる度に人間界に深入りしてしまうのが少し怖くなっていたから。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

the She

ハヤミ
青春
思い付きの鋏と女の子たちです。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

神様自学

天ノ谷 霙
青春
ここは霜月神社。そこの神様からとある役職を授かる夕音(ゆうね)。 それは恋心を感じることができる、不思議な力を使う役職だった。 自分の恋心を中心に様々な人の心の変化、思春期特有の感情が溢れていく。 果たして、神様の裏側にある悲しい過去とは。 人の恋心は、どうなるのだろうか。

坊主女子:青春恋愛短編集【短編集】

S.H.L
青春
女性が坊主にする恋愛小説を短篇集としてまとめました。

未来の貴方にさよならの花束を

まったりさん
青春
小夜曲ユキ、そんな名前の女の子が誠のもとに現れた。 友人を作りたくなかった誠は彼女のことを邪険に扱うが、小夜曲ユキはそんなこと構うものかと誠の傍に寄り添って来る。 小夜曲ユキには誠に関わらなければならない「理由」があった。 小夜曲ユキが誠に関わる、その理由とは――!? この出会いは、偶然ではなく必然で―― ――桜が織りなす、さよならの物語。 貴方に、さよならの言葉を――

【実話】友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
青春
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...