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第二章
13.血の香り
しおりを挟む「あっ……ぶねっ!」
ズサーッ……
滝原くんは私の頭上でサッカーボールをキャッチした後、地面に身体が叩きつけられた。
私は砂埃が舞う中、その隙間から心配の目を向けてかがむ。
「滝原くんっ! 大丈夫?」
「……うん、佐川さんは?」
「大丈夫だけど……。私にボールが当たりそうなところを救ってくれたの?」
そう聞いた途端、ジャージを捲り上げている左肘の怪我に気付いた。
「どうしよう! 大変……。滝原くんの肘が擦りむけて血が出てる」
「あっ、ホントだ」
「保健室行かなきゃ。私が一緒に……」
「いいよ。1人で行ってくるから」
彼はスクっと立ち上がると、生徒と一緒にボールの準備をしている教師に伝えて校庭を後にした。
心配する反面、漂ってきた血の香りに反応してしまった。
それが、とても美味しそうな香りだったから、思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
彼は私がボールに当たらないように助けてくれたのに。
本当は感謝しなければならない立場なのに、この瞬間からビクンビクンと身体が揺れ動くくらいヴァンパイアの血が騒ぎ出していた。
こんな経験、初めての事。
準備が完了すると、最初は男子の練習試合が始まった。
女子は校舎前のコンクリートの段差に座って雑談をして試合を見ていない人が多かったけど、男子の熱意ある声がけに気付き、次第に1人1人の目がコート内に吸い寄せられた。
中でも一際目立つプレーをする生徒が。
ーーそれが、怜くん。
1人、2人と立ちはだかる相手チームの選手を隙をついてドリブルで突破。
観客を惹きつける多彩なテクニックに華麗なシュート。
ゴールを決める度に、拳を握りしめたまま肘を引いて「よっしゃーー!」と声を張って喜ぶ。
澪が怜くんのプレイに釘付けになっている時に異変に気付いた。
試合を見てると言うより怜くんを目で追ってると言っても過言じゃないほど、ケンカしてる時に見られないような優しい眼差しを向けていた。
もしかしてという想いがあったけど、言わなかった。
その理由は、カレンダーをめくる度に人間界に深入りしてしまうのが少し怖くなっていたから。
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