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第一章
9.人間界の家族
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「ここが私の自宅かぁ……」
司令部から送られてきたデータを元にやって来たのは、十五階建ての白い箱型のマンション。
なぞるように頂上まで見上げると、太陽で窓ガラスが反射していて、ベランダには洗濯物が干されていて生活感に満ちあふれている。
部屋番号を確認してインターフォンを押すと扉が開く。
中から出てきた女性は、丸顔で黒髪のショートカットで、ブルーとホワイトのストライプシャツに紺色のパンツを履いている。
彼女は今日から私の母親代わりの人。
初対面だけど、何故か身体の力がスッと抜けるような感覚に襲われた。
「美那、おかえりなさい。始業式に出れなくてごめんね」
「ううん、いいの。おばあちゃんの調子はどう?」
この返事は今日のシナリオとして準備されたもの。
人間界に到着してから司令部から送られてきたメッセージをちゃんと確認しなかったせいで今朝は失敗したから、先程入念にチェックした。
「今朝熱があったけど、私が家に行った時はもう下がっていたから心配しないで。おやつがあるから着替えたらリビングに来てね」
「はーい」
今日から始まる生活で不自由しないように、偽物の日常が恰も本物のように創り込まれている。
どうやら私は母子家庭の子という設定らしい。
着替え終えてから、リビングへ行くとおばさんはテーブルに紅茶とシフォンケーキを出してくれた。
「学校どうだった?」
「えっ、えっとぉ…………」
学校に向かってる最中ひったくりにカバンを盗まれて。
通りかかった滝原くんにカバンを取り返してもらって。
お礼を言おうと思ったら滝原くんが倒れて病院に搬送されて。
そのせいでギリギリセーフで学校に到着して。
嘘まみれの自己紹介したら怜くんから「かわいい」と言われてクラスでひときわ目立って。
怜くんのネックレスの十字架を見て気分が悪くなって。
廊下でもだえているところを怜くんに心配されたら、滝原くんがやってきて怜くんと険悪な雰囲気になって。
帰り際に滝原くんに呼び止められて貧血持ちだと言う事を明かされて……。
当然言えるはずがないけど、ざっと思い返しても今日1日の内容が濃すぎる。
「た……楽しかったよ」
「かっこいい子や気になる子はいたの?」
「えっ! う……うん。まぁ……(鋭いなぁ)」
「じゃあ、明日は髪をかわいく結ってあげるね。明日からも学校楽しみだね~」
おばさんはテレビドラマで見ていた母親役のように私にそう言った。
実は、私には両親がいない。
生まれた頃から施設に引き取られていた。
だから、これが初めての親子のコミュニケーションに。
もし、本当の母親がいたらこんな感じで娘の事を想ってくれるのかな。
本物の家族じゃないしまだ最初だからよくわからないけど、ゼロからの世界で生きていくのは不安だったから優しい雰囲気の母親でホッとした。
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