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第二十四章

180.最後

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  蓮は指先のチョークの粉をぱっぱと払ってから黒板を離れて窓へ向かい、窓枠に両手をかけて向こうの景色の校庭に別れを惜しむかのような瞳で眺めた。



「今日で高校生活も最後だね。振り返ってみると、俺の3年間は教室とお前がセットだったよ」

「あはは、私も同じ事を思ってた」


「3年生だけでも7クラスあるのに、まさかお前と3年間同じクラスだったなんてすげぇ確率。……それが、今日で最後と思うと寂しいよ」

「……えっ」



  一瞬、目の前が真っ暗になった。
  蓮の口から《最後》だなんて……。



「今までありがとう。お前が傍にいてくれたお陰で楽しい3年間を過ごせたよ」



  私は今この瞬間に蓮とやり直す気でいたのに、今までありがとうって……。



「いい時も悪い時も、俺らはいつも思い出を共有してたよな」



  高校生活最後の日に、締めくくりの言葉なんて言わないでよ。



「俺、2年間お前と付き合えて本当に幸せだった。感謝してるよ」



  やめて……。
  今から別れ話を始めるなら聞きたくない。
  私達の関係を勝手に最後にしないでよ。
  蓮が私の高校生活の青春全てなんだよ。
  もう二度と離れたくないと思ってるのに。



  梓は蓮の言葉に温度差を感じると、焦る気持ちを抑えられなくなった。



「……それ、どーゆ意味?」

「え?」

 
「私と一緒に過ごした3年間を一緒に締めくくりたいとか、今日で最後だと思うと寂しいよとか、私と付き合えて本当に幸せだったとか……。蓮の考えてる事がよくわかんない。今日はそれを言う為に会う約束をしたの?」

「お前……、怒ってんの?」



  蓮は感情をむき出しにしている梓に驚いた。



  もう、限界……。
  とてもじゃないけど耐えきれない。
  蓮は私とお別れをする為に、ラストステージとして思い出深い教室を選んだの?


  ダメ……。
  私はここで終わりを迎えたい訳じゃなくて、再出発する為に蓮に会いに来たんだよ。
  蓮に告白して付き合い始めたあの頃よりも、今は気持ちが何十倍にも膨れ上がっている。

  一年の最初に教室で二人の始まりを迎えたからといって、三年の最後に教室で二人の関係を終わりにしないで。

  酷いよ。
  残酷過ぎるよ……。



  蓮を真っ直ぐ見つめる梓の瞳からは、大粒の涙がポロリとこぼれ落ちた。
  窓辺から差し込む日差しが梓の涙をキラキラと輝かせている。



「蓮がどう思ってるかわからないけど……。私は諦められない。もう二度とお別れなんてしたくない。蓮とまたやり直したいよ」



  梓は涙をポロポロと顎に滴らせながら、スカートをギュッと握り締めた。
  口から飛び出た言葉は、幾度となく繰り返していた復縁を願う言葉。

  もうこの言葉を言うのは何度目だろう。
  蓮も聞き飽きたに違いない。
  でも、感情がピークに達しているから、今はこれ以上の言葉が出て来なかった。



  蓮は窓際から離れて黒板前の梓の目の前に立ち、ワイシャツの袖で片方ずつ梓の頬に滴る涙を拭う。



  彼のワイシャツの袖口からは、いつもと変わらない香りが漂う。
  既に我慢の限界を迎えているせいか、その香りは更に涙を誘った。



「……ありがと。やり直したい気持ちは嬉しいけど、お前から聞きたいのはその言葉じゃない」

「蓮……」



  もう、ダメなのかな。
  きっと蓮は、私からサヨナラという言葉を待ってるんだよね。
  私達、今日で本当に終わりなのかな。
  蓮とはお別れしなくちゃいけないのかな。

  嫌だよ……。
  離れたくないよ。

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