151 / 184
第二十一章
151.感謝の気持ち
しおりを挟む胸の中で散々泣き腫らした後、気持ちが落ち着くと徐々に理性を取り戻していった。
「胸を貸してくれてありがとう。お陰で少し落ち着いたよ」
梓は右手で涙を拭って大和の胸にそっと左手を添えて離れた。
だが、大和の瞳はまだ心配している。
「どうして一人であいつらの所に行ったの?」
「別のクラスの男子が蓮からの伝言で体育館の用具室に来るようにって言ってて……。確認の為に一旦教室内を見たんだけど蓮は居なかったから、本当に頼んだんだと思い込んじゃって……」
「アホか。蓮が他の男に要件を伝える訳ねぇだろ」
「そうだよね。さっきは蓮の名前に過剰反応してた。……でも、どうして私が用具室に居る事を知ったの?」
「今朝、廊下でお前と激しくぶつかっただろ」
「うん」
「実はお前が暗い顔をして何処かへ走り去った後、後ろから紬が泣きながらお前を追いかけて来たんだ」
「……うん、知ってる」
「紬を引き止めて話を聞いたら、お前の心が壊れそうだから気にしてやってって」
「紬が大和にそんな事を……」
「……そ。で、さっき体育館へ向かってるお前を見かけて何か様子がおかしいと思って後をつけて行ったらこのザマだ。用具室の扉で聞き耳を立てていたら、ちょうど目線の先に消火栓があったから、お前を救出するならコレだと思ってね」
「そうだったんだ。大和が来てくれたから何もされずに済んだよ」
危機から救ってくれたのは大和だけじゃない。
紬が今朝から様子がおかしい私を心配してくれていたから、今という結果に繋がっている。
「有り難く思えよ。でも、胸を貸すのは今回限りだからな」
「そんなのわかってるよ」
「いつになるかわかんないけど……、紬専用になるかもしれないし」
「えっ?! いま何て?」
「今朝、紬が泣いてる姿を見たら守ってあげたくなると言うか……、何と言うか……」
「冗談じゃなくて?」
「あのさぁ、どうして俺がこんな時に冗談を言わなきゃいけないの?」
「……だよね」
「昨日あいつから貰ったチョコ、平和な味がしたんだよね。甘くて、優しくて、頼りなくて……。そのチョコがやけに紬っぽくてさ。作ってる姿を想像したら、なんか心が暖かくなるというか……。ま、まぁ……、まだ気持ちとかよくわかんないから、はっきりするまで見守ってて」
「あ……、うん。わかった」
頭をぐしゃぐしゃ掻きむしりながら照れ臭そうに紬の話をする大和は、先程の用具室の扉の向こう側で迫力満点で仁王立ちしていた姿とはまるで別人のよう。
なぁんだ。
結構かわいい所あるじゃん。
でも、助けに来てくれた時は本当に格好良かったよ。
私も紬と上手くいくように心から願ってるからね。
「大和。一つだけお願いがあるんだけど、聞いてくれる?」
「何?」
「用具室の件だけど……。蓮には言わないで欲しいの」
「どうして? お前は蓮のせいで奴らにハメられたんだろ」
「蓮は悪くない。ただ、周りの人達が騒ぎを起こしただけ。それに今は受験シーズン中だし、私の事で傷つけたくないから。お願い……」
梓は顔の前で両手を合わせてお願いをすると、大和は蓮を思いやる気持ちが届いた。
「お前がそこまで言うなら……」
受験生の私達にとって今は最も大事な時期。
自分のせいで蓮に余計な心配はかけたくなかった。
「大和……」
「何?」
「心配してくれてありがとう。助けに来てくれてありがとね。感謝してる」
梓は気持ちを素直に伝えると、大和のほっこりとした笑顔が戻った。
救ってくれたのが大和で本当に良かった。
今は言葉以上に感謝している。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
兄貴がイケメンすぎる件
みららぐ
恋愛
義理の兄貴とワケあって二人暮らしをしている主人公の世奈。
しかしその兄貴がイケメンすぎるせいで、何人彼氏が出来ても兄貴に会わせた直後にその都度彼氏にフラれてしまうという事態を繰り返していた。
しかしそんな時、クラス替えの際に世奈は一人の男子生徒、翔太に一目惚れをされてしまう。
「僕と付き合って!」
そしてこれを皮切りに、ずっと冷たかった幼なじみの健からも告白を受ける。
「俺とアイツ、どっちが好きなの?」
兄貴に会わせばまた離れるかもしれない、だけど人より堂々とした性格を持つ翔太か。
それとも、兄貴のことを唯一知っているけど、なかなか素直になれない健か。
世奈が恋人として選ぶのは……どっち?
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?
キミノ
恋愛
職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、
帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。
二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。
彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。
無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。
このまま、私は彼と生きていくんだ。
そう思っていた。
彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。
「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」
報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?
代わりでもいい。
それでも一緒にいられるなら。
そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。
Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。
―――――――――――――――
ページを捲ってみてください。
貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。
【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
恋煩いの幸せレシピ ~社長と秘密の恋始めます~
神原オホカミ【書籍発売中】
恋愛
会社に内緒でダブルワークをしている芽生は、アルバイト先の居酒屋で自身が勤める会社の社長に遭遇。
一般社員の顔なんて覚えていないはずと思っていたのが間違いで、気が付けば、クビの代わりに週末に家政婦の仕事をすることに!?
美味しいご飯と家族と仕事と夢。
能天気色気無し女子が、横暴な俺様社長と繰り広げる、お料理恋愛ラブコメ。
※注意※ 2020年執筆作品
◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。
◆無断転写や内容の模倣はご遠慮ください。
◆大変申し訳ありませんが不定期更新です。また、予告なく非公開にすることがあります。
◆文章をAI学習に使うことは絶対にしないでください。
◆カクヨムさん/エブリスタさん/なろうさんでも掲載してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる