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第二十一章
144.切羽詰まった心
しおりを挟むーーピンクの梅の花が残り僅かになった学生生活の花道を彩っている、バレンタインの翌日。
駅からの登校中、紬は前に歩いている梓に気付いて後ろから駆け寄って声をかけた。
「梓、おはよー」
「あ、おはよー。昨日は大和にチョコ渡せた?」
梓はそう言って振り返ると、紬と歩調を合わせた。
紬は学生鞄を肩にかけ直してため息混じりに呟く。
「……うん。チョコを渡しに行ったんだけど、大和くんの前には人が群がってて。チョコを渡すのには順番があるからって一列に並ばされちゃった」
「えぇっ! 紬を列に並ばせるなんて、あいつどーゆー神経してるの……」
「渡しに行った時間が悪かったのかな。本当は二人きりの時に渡したかったんだけど。……でも、渡せただけでも満足してる」
そう言って苦笑いする紬。
きっと煮え切らない気持ちでいっぱいだろう。
でも、チョコを受け取るだけでも女子達を一列に並ばせるなんて、面倒臭がり屋の大和らしいと言えば大和らしいけど……。
「梓は? 蓮くんにチョコを渡せた?」
「うん。その場で食べてくれたよ」
「どう? 復縁出来そう?」
「ううん……。私の答えがまだ見つかっていないから」
「もうすぐでお別れなのにね……。蓮くんは梓がいなくても寂しくないのかな」
「どうだろう……。蓮は大学に入学して新しくやり直したいとも言ってたから」
「梓は蓮くんがいなくても平気?」
「辛いよ。卒業を機に会えなくなっちゃうから……」
卒業式まで残り2週間。
その2週間の間に答えに辿り着きたい。
だけど、来週はいよいよ本命校の入試があって、蓮の事ばかり考えてはいられない現実がのしかかっている。
私はこの2週間で恋愛と受験に王手をかけなければならなくて、切羽詰まった心は窮地に追い込まれていた。
紬と一緒に教室に入ってから、ふと自分の机に目をやると、そこには楽しい気分を一瞬で覆すほどの驚愕的な光景が待ち受けていた。
机の上には墨汁が撒き散らされたジャージが無様な姿で置かれている。
目を覆いたくなるほど無残な現実に言葉を失った。
「梓っ……。梓のジャージが……」
「…………」
未だにこんな残酷な仕打ちをしてくる人が居ると思うだけで悲しい。
誰にも悪い事をしてないのに……。
「こんな卑劣なやり方しか出来ないなんて最低……。梓、もう黙ってないで先生に言いに行こう。これ以上我慢できない」
紬はいたたまれない現状にしびれを切らして梓の腕をグイッと引っ張って職員室へ連れて行こうとしたが、梓は紬の手をスッと解いた。
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