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第十八章

122.別人のような梓

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「お前……、どうしてこんな所にいるの?  しかも、その格好は一体……」



  ーー今日、奏と大和と塾帰りにクラブで遊ぶ約束をしていた。
  受験シーズン真っ盛りだけど、家と塾との往復ばかりじゃ気が滅入ってしまうので、ストレス発散をしようと思っていた。

  毎週金曜日に開催されるイベントに大和がお気に入りのDJが参加する事もあり、店内はいつも以上に混雑が予想されていたので、今日は店外で二人と約束をしていた。


  ーーところが、問題はここから。
  暗闇の中、塾帰りのまま約束の時間に行くと……。
  そこには白いファーのショートコートに、黒いホットパンツ姿で編みタイツとニーハイブーツを履いている梓が俺を待ち構えていた。

  辺りを見回しても、奏と大和の姿は見当たらない。
  何度瞬きをしても目の前には梓一人だけ。

  しかも、今まで見た事のないほどギャルっぽい服装に驚いて、人差し指を向けたまま声を詰まらせた。



「決まってるじゃ~ん。奏達に頼み込んで蓮と二人きりで遊ぼうと思って待ってたのぉ~」



  あれ……。
  服装どころか、いつもとテンションが違う。
  最近は腫れ物に触るかのような態度だったのに、今は俺の腕を両手で掴んで目が座ったままブラブラと揺らしている。

  派手な服装に異様なテンションと違和感があったが、クラブの前に居る事が一番気に食わない。



「ここがどこだかわかってんの?」

「うっふっふ……、勿論わかってるぅ。蓮に会いたかったのぉ~」


「会いたかったのは一旦置いといて、そんなに短いパンツ履くんじゃねぇよ。他の男が見るだろ……」



  蓮はそう言うと視線を外して不服そうな表情のまま頬を赤く染める。



「……えっ、蓮が私の心配を?」

「そっ……それはいいから!  早く帰れ。ここはお前が来るところじゃない」



  梓は蓮の身勝手な見解を不服に思ってふくれっ面を見せる。



「あっそう。蓮が遊んでくれないなら、私一人で店の中に入っちゃおっかな~。どうしよう、イケメン達にナンパされちゃったら」

「……マジで言ってんの?  イケメンがお前に声かける訳ないだろ(こう言えば諦めてくれるかな)」



  だが、梓は蓮のひと言にカチンとくると、口を尖らせてそっぽを向いた。



  それ、どーゆー意味で言ってんのかな。
  私をブスとでも言いたいの?
  この前はかわいいって言ったくせに、本当に酷いんだけど。



「はぁはぁ、そうですか~。じゃあ、イケメンにナンパされたらついて行っちゃおうかな~」



  梓が蓮の気持ちを逆撫ですると、蓮の口角がピクリと動いた。



  正直、あいつの冗談は笑えない。
  残念ながら、奏も大和もこのクラブでナンパしまくっていて、気に入った女をお持ち帰りしてるから。



「ダメだ!  ダメだ!  ダメだ!  男はみんな狼だから。自分の目でちゃんと男を見極めろよ。声をかけられてもホイホイついて行くなよ、バカ!」

「へぇ~。蓮以上の狼って存在するんだ。知らなかったぁ」


「お前は世の中を知らなさ過ぎる。自分から狼の大群に突っ込んでいくんじゃねぇよ」

「蓮と付き合ってたから、ある程度狼には慣れてる。ねぇ、早く中に入ろ」


「ねぇ、いまの話聞いてた?!  ……はぁ……。もう帰るぞ」


「えーっ。まだ到着したばかりだよぉ。夜はこ・れ・か・ら」



  ブーブーと駄々をこねる梓に一歩近付いて腕を引こうとしたが、梓は負けじと腕を引っ込めて俺から逃げるように一歩後ずさった。

  しかし、梓に一歩近付いた瞬間、プ~ンと漂う香りが……。
  気のせいだと思いたいが、念の為に鼻をヒクヒクさせて嗅ぎ直した。



「ん?  ちょっと待て……。お前、酒臭くない?」

「さっき奏達と一緒に飲んだから~。あははは……」


「梓に飲ませたのはあいつらか。なんて事を……。ほら、帰るぞ。前を向いてしっかり歩いて」

「えぇ~!  嫌だよぉ~。帰りたくなぁ~い」



  今日は様子がおかしいと思っていたら、先にあいつらが酒を飲ませていたとは。
  でも、酔っ払ってる梓を心配してしまう俺は、ひょっとしたらあいつの親以上に過保護かもしれない。

  俺は足元を覚束せて嫌がる梓の腕を掴んで、家に帰そうと思い駅へ向かった。

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