111 / 184
第十六章
111.蓮の悩み
しおりを挟む「あいつ、疲れてたんじゃない? 塾へ行った後に俺らと夜遊んでいたから。聞いた限りでは何か深刻な悩み事があって、酒に悪酔いしてその辺の女と寝ちゃったみたいだし。浮気した事は殆ど覚えてないみたいだけど」
「………塾? 悩み? そんなの知らない」
「お前はちゃんとあいつの話を聞いてあげたの?」
「ううん。浮気されたショックで聞けなかった。……でも、蓮はどうしてそんなに勉強してるの?」
「その理由を先日ようやく聞き出したんだけど……。なんか、お前を幸せにする為とか。あいつなりにお前との将来を思い描いたんだろうな」
「私との将来? 何よそれ……」
「あいつ、付き合ってる時も別れた後も、頭ん中はお前一色に染まっていたから、俺らの誘いを断わってばかりだった。お前との時間を優先してたのは気付いてた?」
「う、うん……」
「それが蓮の全てなんじゃない? 最後まで信じてやれば良かったのに。今度はあいつがお前に愛想つかしたんじゃない? ……ま、お前には愛するセンセーがいるから関係ないか」
「奏っ!」
「じゃあ、まったねー!」
奏は立ち上がってから明るい声でそう言い背中を向けたまま手を振ると、クラスメイトが集合している校庭へと向かって行った。
奏の話は自分が知らない事ばかり。
話を聞かなければ、蓮の本心を知らずにやり過ごしていただろう。
塾に通ってる事。
悩みがあった事。
それに、話をちゃんと聞いてあげなかった事。
信じてあげなかった事。
蓮は私との将来を思い描いて頑張っていたのに、私は遊んでばかりいると思っていた。
内面をしっかり見てあげなかった証拠かもしれない。
気付けば、つい先日別れたばかりの先生にも同じ事をしていた。
ゆっくり話を聞いてあげたり、信じてあげていたら、また違う未来が用意されていたかもしれない。
私は昔から全然変わっていない。
蓮は、私との将来を見据えて頑張ってくれていたと思うと、自分の考え方が浅はかで嫌になった。
私は人を責めるばかりで大切なものを見失っていた。
その上、真実を引き出そうとしなかった。
蓮の悩み事に早く気付いて対処していれば、浮気が防げたかもしれないのに。
別れの原因は蓮だけかと思っていたけど、話をちゃんと聞いてあげない私にも原因があった。
8ヶ月以上も前に別れた人を、交際していた時以上に好きになるなんて普通あり得ないよね。
もしかしたら、心の片隅で恋心が生きてたのかな。
蓮が言ってた通り、私の心が迷子になっていただけなのかもしれない。
蓮の学習机の2段目の鍵付きの引き出しの中の思い出の品々を見た時に気持ちに気付いていれば、蓮と先生をここまで傷付けなかったかもしれない。
彼が見向きもしなくなった途端、ようやく自分の気持ちに気付いた。
最近は呼び止めても振り向いてくれないし、口も利いてくれない。
それは、紛れもなく自分が原因だ。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】
まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と…
「Ninagawa Queen's Hotel」
若きホテル王 蜷川朱鷺
妹 蜷川美鳥
人気美容家 佐井友理奈
「オークワイナリー」
国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介
血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…?
華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。
夕陽を映すあなたの瞳
葉月 まい
恋愛
恋愛に興味のないサバサバ女の 心
バリバリの商社マンで優等生タイプの 昴
そんな二人が、
高校の同窓会の幹事をすることに…
意思疎通は上手くいくのか?
ちゃんと幹事は出来るのか?
まさか、恋に発展なんて…
しないですよね?…あれ?
思わぬ二人の恋の行方は??
*✻:::✻*✻:::✻* *✻:::✻*✻:::✻* *✻:::✻*✻:::✻
高校の同窓会の幹事をすることになった
心と昴。
8年ぶりに再会し、準備を進めるうちに
いつしか二人は距離を縮めていく…。
高校時代は
決して交わることのなかった二人。
ぎこちなく、でも少しずつ
お互いを想い始め…
☆*:.。. 登場人物 .。.:*☆
久住 心 (26歳)… 水族館の飼育員
Kuzumi Kokoro
伊吹 昴 (26歳)… 海外を飛び回る商社マン
Ibuki Subaru

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。

溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる