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第十四章
99.四人だけのパーティ
しおりを挟むーー今日はみんなと約束していたクリスマスパーティの日。
イケメントリオと私と紬の計五人で、夕方からカラオケルームでパーティをする予定だったんだけど……。
四人の彼女を持つ奏は都合がつかなかったのか、当日になってドタキャンした。
紬は前々から楽しみにしていた分、五人揃って遊ぶ機会を失って少し残念そうに肩を落としている。
予約していたカラオケ店の部屋に入ると、紬は持参した袋の中から透明のラッピング袋に包まれている手作りのカップケーキをみんなに配った。
中でも喜んでいたのは大和。
受け取った直後にピンクのリボンをスルスルと解いて中身のカップケーキを取り出した。
「うぉーっ、すっげぇ! プロのパティシエが作ったみたい。カップケーキの上に乗っかってるピンクの生クリームはどうやって作ったの?」
自由主義者の大和にとってプレゼントは特別な物。
しかも手作りのお菓子。
発狂混じりの尋常じゃない喜び方からすると、愛情のこもったお菓子をもらったのは、恐らく今年のバレンタイン以来だろう。
そんな様子を見ていた梓と蓮は、お互い目配せをした。
2時間たっぷりカラオケを楽しんで、会計を紬と大和に任せた梓と蓮は、自動ドアの前でヒソヒソと耳打ちする。
紬達は会計を終えて自動ドアに向かった瞬間、梓達の作戦はいざ決行へ。
蓮「じゃあ、俺ら先に帰るわ。まったね~!」
梓「紬、大和。よいお年を~」
大和「ちょちょちょちょっと、お前ら……」
紬「えっ! えっ!」
梓と蓮は、大和の引き止める声を背中で聞き取ってドアを出た後に全力疾走する。
二人は紬と大和を二人きりにする事を目論んでいた。
普段から迷惑をかけている紬に感謝の意を込めて……。
「梓っ、こっち!」
「うっ、うん!」
時計の針は19時を指していて、辺りはすっかり暗闇に包まれている。
頼りになるのは月夜と街灯りとクリスマス用に飾られたイルミネーションだけ。
普段より人通りの多い街中は、クリスマスという事も重なりカップルで溢れ返っている。
道を立ち塞いでいる人々の間を、蓮に続いてすり抜けて走っていたら、上手く避けきれなくて人にぶつかって転んでしまった。
ドンッ……
「あっ、ごめんなさい! イテテ……」
すると、気付いた蓮は足を引き返して、地べたに座る梓にサッと右手を差し出した。
「大丈夫? 怪我してない?」
「うん、大丈夫。ありがと」
梓は蓮を見上げてゆっくりと手を重ねた。
久しぶりに触れた蓮の大きな手。
数ヶ月前までは、毎日のように握りしめていた。
蓮は人がごった返す街中ではぐれないようにギュッと力強く手を握りしめた。
街中を駆け抜けてから、蓮がピタリと足を止めて辿り着いた先。
そこは、昔二人で一度だけ来た事のある海が見える公園。
公園は高台にあって、海と街中が一望できる。
公園周辺は薄暗い街灯と月明かりだけ。
潮風で髪が頬をくすぐり、波打つ音が耳に聞こえてくる。
静寂に包まれている海は、月夜が反射して波がキラキラと輝いていた。
軽く周りを見渡すと、所々にカップルが椅子に座って肩を寄せ合いながら二人だけの世界を楽しんでいる。
蓮は私と手を繋いだまま。
本当はこれが不正解だけど、手を離すタイミングがわからなかった。
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