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第十一章
72.好都合
しおりを挟む大和「はぁ? 俺がこんなに心配して聞いてるのに、しらばっくれるつもり? 大事な話をしてるのに、お前の頭は無事か?」
蓮「失礼だな。お前の頭より無事だ」
奏「おっ、おい……。止めろって」
大和「お前の頭よりとはなんだと、こらぁ!」
蓮「やるか? こらぁ」
奏「二人とも、もうやめろ(こいつら面倒くせぇ……)」
お互い顔をしかめながら巻舌で罵ってると、奏は手振りを加えて仲裁に入った。
それにより一旦お互い気持ちを落ち着かせると、大和は再び先程と同じく心配顔に。
大和「正直に言えよ。お前、病気なんだろ。どうして俺らにまで秘密にするの?」
蓮「病気って……。一体何の事?」
奏「梓は蓮が病気だと思ってるよ」
蓮「えっ、梓が何で?」
大和「よくわかんないど、先日深刻な顔でそう言ってた。蓮が突然梓の事がかわいいって言ってきたり、蓮には時間がないとかって。本当は不治の病なんだろ?」
蓮「俺、いつから不治の病に侵されたの?」
奏「違うの?」
蓮「当たりまえだろ。身に覚えが無い」
大和「何だよ……。心配して損した~」
奏「お前っ! まさか、時間がないって……。以前、クラブで飲んでた時に言ってた話か!」
奏は蓮の相談を受けた時の話を思い返した途端、『時間がない』の意味を察した。
大和「あの時の話って何?」
奏「あーっ。もう、お前は面倒くせーな。話がややっこしくなるから入ってくんな」
蓮「あぁっ! もしかしてあの時の……」
確かに俺は梓に『時間がない』と言った。
でも、『その時間がない』は、人生の時間じゃない。
梓が卒業を機に高梨の元へ嫁いでしまうかもしれないから、卒業まで俺に残された時間がないという意味だった。
大和「だから、あの時の話って何?」
奏「梓は時間がないっていう話をどこかで履き違えたんだな」
蓮「マジかー。結局俺のせいかよ……」
蓮はテーブルに肘をついて頭を抱える。
だが、大和は二人の話の内容を知らぬが故に、オウムのように同じ質問を繰り返す。
大和「卒業まで時間がないから、一体何なんだよ」
奏「お前しつこいな……」
蓮「最近、薄々おかしいなと思ってた。俺は不治の病中だから、あいつはやけに身体を心配してたんだな。今ようやく繋がったわ」
いま明かされるまで知らなかったけど、俺はいつの間にやら不治の病と思われていたらしい。
しかも梓を見かけたら100メートルを4秒くらいのスピードで走れそうなほどピンピンなのに、何故不治の病に繋がったのかがわからない。
ここ最近、みんなから可哀想な目で見られていた意味がようやく理解出来た。
……いや、待てよ。
梓が身体を心配していてくれるという事は、もしかしたら病気でいる方が今の俺にとっては好都合なのかもしれない。
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