57 / 184
第九章
56.発覚
しおりを挟む「先生。借り物競走始まっちゃったから、もう戻るね」
「梓、……実は話があるんだけど」
「えっ? なぁに?」
梓は教室から離れようとして足を廊下の方に向けていたが、呼び止められて振り返った途端……。
廊下から物凄い勢いでバタバタと足音を立てながら自分達の方へ向かって来る音がした。
ーーそれは、少しだけと割り切るはずが思いの外長居してしまった矢先に起きた出来事だった。
「えっ、嘘っ……」
梓と高梨は緊迫した空気に包まれると、冷や汗混じりの表情で互いの目を合わせた。
どうしよ……。
先生と二人きりでいた所がバレちゃう!
梓は危機感と恐怖によって足がすくんでしまい、離れなきゃいけないと思う意思とは対照的に思うように動けなくなっていた。
ーーすると、教室の前で足音が止まったと同時に、勢いよく教室の扉が開いた。
バーン……
扉の音が鳴り響いた瞬間、絶望感に陥った。
暴れ狂う鼓動に額に滲む冷や汗。
扉を直視する事が出来ずにギュッと目を閉じた。
もうダメだ……。
先生との関係がバレたかもしれない。
安易にここへ来るんじゃなかった。
あと少し我慢すれば、卒業後に堂々と会えたのに、どうしてそのあと少しを耐え抜かなかったんだろう。
怖い。
怖いよ……。
梓は後悔の波に押し寄せられながら覚悟を決めて身構えしていると……。
「ハアッ……ハアッ……梓っ……」
ビクビクと震えている背中から聞こえてきたのは、普段身近で聞いてる声。
恐る恐る扉の方へ振り返ってみると、そこには前方扉に手をかけて息を切らしている蓮の姿があった。
「柊……」
先生は蓮に発覚された瞬間、驚愕した様子を見せた。
既に私達の関係が蓮にバレている事を知らないから、余計驚いたと思う。
私は教室に現れたのが蓮だと知ると、ホッとするあまり全身の力が抜けた。
蓮は先生の心境など気にも留めずにズカズカと教室に入り込むと、私の手をギュッと強く握りしめた。
「……ほら、行くぞ」
「えっ?」
「今年の借り物競争のお題が【大切なモノ】だから。……先生、梓を借りていくよ」
「ちょ、ちょっと……蓮」
「柊……」
蓮は私の手を引いて廊下へ足を進ませた。
扉の前で一旦立ち止まってゆっくり振り返ると、高梨先生に不敵な笑みを浮かべてこう言った。
「まぁ……、梓は元々俺の女だし、そう簡単には返さないけどね」
吐き捨てるように戦線布告をした後、ステージへ向かう為に外へ全力で走った。
蓮……。
バカなんじゃないの?
私は先生と付き合ってるって言ったじゃん。
蓮とは付き合えないって、この前伝えたばかりでしょ。
どうして、借り物競争なんて参加するの?
どうして、私を迎えに来たの?
どうして、先生に戦線布告なんてしたの?
どうして、私を【大切なモノ】として借り物競争のステージに連れて行こうとしているの。
一体、どうして……。
去り際に見えた先生は、理性を失わせてしまったように右手を前に突き出していた。
だけど、声を上げられない。
どんなに辛い状況であっても教師という立場上、気持ちを押し殺さなければならない。
秘密の恋愛は想像以上にハードルが高いから。
先生……。
私達の関係が誰にもバレていないと思っていたから、驚いて当たり前だよね。
交際がバレていた上に、目の前で私が連れ去られたんだもんね。
しかも、元彼宣言した蓮が『簡単には返さない』と言って戦線布告してきたんだもんね。
ステージ上に真っ直ぐに向かう蓮の手に引かれた梓の頭の中は、色んな思いが駆け巡った。
逃げようとしても、手を強く握られていて逃げられない。
一人教室に取り残された高梨は、予想外のライバル出現によって、平穏だった日々にピリオドを打った。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
兄貴がイケメンすぎる件
みららぐ
恋愛
義理の兄貴とワケあって二人暮らしをしている主人公の世奈。
しかしその兄貴がイケメンすぎるせいで、何人彼氏が出来ても兄貴に会わせた直後にその都度彼氏にフラれてしまうという事態を繰り返していた。
しかしそんな時、クラス替えの際に世奈は一人の男子生徒、翔太に一目惚れをされてしまう。
「僕と付き合って!」
そしてこれを皮切りに、ずっと冷たかった幼なじみの健からも告白を受ける。
「俺とアイツ、どっちが好きなの?」
兄貴に会わせばまた離れるかもしれない、だけど人より堂々とした性格を持つ翔太か。
それとも、兄貴のことを唯一知っているけど、なかなか素直になれない健か。
世奈が恋人として選ぶのは……どっち?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?
キミノ
恋愛
職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、
帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。
二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。
彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。
無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。
このまま、私は彼と生きていくんだ。
そう思っていた。
彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。
「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」
報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?
代わりでもいい。
それでも一緒にいられるなら。
そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。
Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。
―――――――――――――――
ページを捲ってみてください。
貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。
【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。
忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる