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第六章
35.誤魔化される病気
しおりを挟むヒュルルルル~…… ドーン……
ーーもう、10分くらい経ったのだろうか。
一人で見上げる打上花火。
花火が空に大きく輪を描く度に周囲の観客が騒めいている。
見上げた瞳に映り出される花火は、空高く色とりどりの光が舞い散り、心臓を打ち抜くような低い爆音を響かせてキラキラと大きく輪を描いた後は……。
力を失わせながら、点々と輝きを失わせて……。
脆く。
儚く……。
原型を留めることなく静かに消え去って行く。
それは、まるで私と蓮の恋模様のように。
蓮は砂浜に私を一人きりで待たせたまま。
屋台へ行ったっきり帰って来ない。
探しに行った方がいいかな。
でも、ここを離れないようにって言われたし……。
行き違いになったら困るし。
スマホを持ってないし。
お金もないし。
蓮の両親も来ないし。
でも、もし容態が悪化して倒れたりしてたら……。
梓は盛大な花火に包まれながら様々な妄想を描き、目眩がしそうなほどの不安に襲われると、気持ちは花火大会どころではなくなった。
蓮が心配で半目涙でしょんぼり立ち尽くしていると、暗闇の奥からレジ袋を片手にぶら下げている蓮が小走りで戻って来た。
「遅くなってごめん。焼きそばの屋台めっちゃ混んでてさ」
軽く息を切らしながら笑顔で戻ってきた蓮は、孤独と不安の狭間で戦い続けていた梓の気持ちを知らない。
梓は無事な姿を見て安堵すると、瞳から涙が一粒こぼれ落ちた。
「蓮が居なくなったと思って心配しちゃったよ。私を一人にさせないで……」
「大袈裟だなぁ。俺ならここにいるよ。そんなに心配するなら連絡すれば良かっ……あ、そっか。スマホはお前んちか」
と、蓮はあっけらかんと答えた。
「戻って来ないから容体が悪化してどこかで倒れちゃったかと思った」
「えっ、二日酔いはもう治ったけど」
「二日酔い? ……誤魔化しても私にはちゃんとわかってるんだからね」
病気を二日酔いと誤魔化すなんて、やっぱり本当の事を言いたくないのかな。
心配かけさせたくないのかな。
私が気付かなければ、このままずっと隠し通すつもりだったの?
梓は蓮に会えた事による安堵と、病気を隠し通そうとしている不安が重なると、涙が止まらなくなった。
「泣くなって。一人で待っていたのがそんなに寂しかったの?」
不思議そうに頭を傾けた蓮は、自分が病気だと思い込まれてる事も知らずに心配で涙を流してる梓の頭をヨシヨシと撫でた。
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