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第六章

31.引き出しの中の小さな世界

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  蓮がトイレに行った隙を見計らって、部屋の中から病気のヒントになりそうな物を探す事にした。
  まず最初に机の一番上の段の左右の引き出しを掴んで勢いよく同時に開けた。
  勿論、時短のつもりで。


  ガサッ……


「うっ……、汚いのは部屋だけじゃなくて、引き出しの中もだったか」



  最大限まで引かれた引き出しの中は、小学生の頃から整理整頓していないと思われる。
  昔流行ったキャラクターの消しゴムや、折り紙やキーホルダーなど乱雑にしまってあった。



  ここは開かずの間だったのね。
  もう高三なんだから机の中くらい整理整頓すればいいのに。



  呆れてため息をつきつつも、蓮が戻って来ないかと扉の方を何度もチラ見しながら、引き出しを次々と開けて病の証拠になりそうなものを探した。
  勢いが止まらない手のスピードは実に新幹線並みに。

  蓮が戻るまで刻一刻と迫り来る時間。
  引き出しを開けてから軽く手探りしてみてもヒントになるものは見つからない。


  気は焦る一方。
  しかし、まだ一ヶ所だけ開けてない引き出しがあった。
  それは、鍵がかかっている上から2段目の引き出し。

  鍵をかけるくらいだから、ここにヒントが隠されているのかもしれない。
  施錠されているけど、元カノの私には鍵の隠し場所くらいお見通しなんだからね。



  まるで自分の物を扱うように、机の上の筆記用具が入っている筒型のケースの中から鍵を取り出して躊躇いもせずに開錠した。

  鍵が開いた瞬間、扉の方を一度見て蓮が戻ってきていないかを確認。
  まだ間に合いそうなので引き出しを全開にした。



  ドックン……
  ドックン……

  真相を突き止める瞬間は、常に緊張と隣合わせだ。
  しかし、引き出しが開かれた次の瞬間。



「えっ……」



  驚くあまり、手元の鍵をポロッと床に落とした。

  ここは、他の引き出しと違ってキレイに整理整頓されている。
  中に入っていたのは、私との思い出の品々。


  3年間奇しくも同じクラスだった蓮。
  授業中にこっそり回した数々の手紙、
  外デートの時にお揃いで買ったスマホのストラップ、
  お正月に出掛けた時のおみくじや恋愛祈願のお守り。

  それに、毎年撮った体育祭や学園祭で二人で一緒に映ってる写真まで。


  まるでその引き出しだけ時が止まっているかのように、思い出の品々が大切に保管されていた。
  私は引き出しの中の小さな世界に、重石がのしかかるような衝撃を受けた。

  思い出の写真を一枚一枚手に取って当時を思い浮かべながら懐かしさに入り浸っていると……。



「勝手に机の引き出しを開けるなよ」



  蓮はこのタイミングで部屋に戻って来た。
  私は思い出の品を見つめながら言った。



「私達の思い出の写真や品々をまだ捨ててなかったんだ」

「当たり前だろ。今でもお前が好きだから捨てれる訳ないだろ」



  蓮は照れくさそうに写真をヒョイと取り上げると再び引き出しにしまい、床に落ちてる鍵を拾い上げて施錠した。



  もう一度やり直したいって言っていたけど、それはやっぱり本心なの?
  蓮の気持ちは今でも当時のままなの?



  敢えて言葉にしなくても、引き出しの中身が私をそう思わせてしまうくらい全てを物語っていた。

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