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第六章

25.強く握りしめた手

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「蓮っ……、蓮ってばぁ。一体どこに連れて行くつもりなの」



  手を振り切ろうとして必死にもがいても、蓮の力に負けて振り切れない。
  偽物の10パーセントの可能性は、もはや損の塊。
  あの時は、はっきり0パーセントと答えるのが正解だったのだろうか。



「わかった……、わかったからスマホだけでも取りに戻らせて。今日は先生と11時に約束しているから、せめて連絡だけでもしないと」

「スマホなら俺のがあるから、いつでも貸すよ」


「バカッ!  蓮のスマホには先生の電話番号が入っていないでしょ」

「だったらちょうどいいな」


「何言ってるの?  それじゃあ、先生との約束をどうするのよ。それに、蓮が突然来たからセットしている最中の髪だって、まだ半分しかカールが終わってないのに」

「本当だ。ウケる」


「蓮~~~っ!」



  蓮は一度立ち止まってから梓の腕を離して自身の左腕に巻きつけているミサンガを解いて、手ぐしで梓の髪を後ろで一本に束ねた。



「これでよし!  お前はどんな格好でもいつもかわいいよ」



  蓮は梓の頭にポンっと手を置いてニコリとしてクサいセリフを吐いた後、逃げないように再び腕を掴んだ。
  梓は恋人時代から滅多に言われない言葉が耳に届くと、驚くあまり逃げる事を忘れてしまった。



  蓮……。
  一体どうしちゃったの?
  交際していた頃からかわいいなんて殆ど言わなかったクセに。
  蓮は強引で計画性がないけど、付き合っていた時はここまではひどくなかったよ。



「ねぇ、これからどこに行くの?」



  先生とのデートに諦めがかかった頃。
  駅の改札で肩を並べて歩く蓮に行く先を聞いた。



「行けばわかるよ」

「どうしてわざわざ電車に乗るの?」


「お前とデートするから」



  と、私とデートすると一点張りの蓮。
  そのせいで、拉致されてから1週間ぶりの先生とのデートがおじゃんになった。

  電車に乗ってからも、蓮は強く握りしめた手を離さない。
  きっと、扉が開いた瞬間に私が逃げ出すとでも思っているのだろう。
  先ほど最寄り駅で見た時計の針は10時前をさしていた。


  先生はいま私と蓮が一緒にいる事を知らない。
  約束の11時になったらデートがすっぽかされた事に気付くだろう。

  最悪……。
  私ったら何をやってるんだろう。
  いま蓮と二人きりでいるだなんて知ったら、先生はどう思うのかな。
  後でどう説明すればいいの?



「着いたよ」



  自宅の最寄り駅から二駅先の所で電車を降りた。
  ホームに到着した頃には、興奮していた気持ちも治まっていた。


  多くの人が行き交う駅で久々に感じる女性からの視線。
  どの角度からも注目を浴びてるのがわかる。
  勿論、視線の先は私ではない。

  蓮はあまり気にしていないかもしれないけど、彼女でもない私が隣で歩くのは少し気が引ける。

  過去を振り返ると、蓮と付き合っていた頃が人生の中で最も大変だったような気がする。

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