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第十二章

114.80億分の1のキセキ

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「お兄ちゃん、おしっこ~……」



  甘い雰囲気などものともせずに、ソファの向こうからミカが目を擦りながらやってきた。
  2人は突然の事態に仰天すると、目をまん丸にさせながら身体をサッと離して赤面させた。



「うわあぁぁっ!!」

「ひゃっ!!」



  しかし、悲鳴によってミカの目が次第に覚めてきてぼんやりしたまま結菜の姿を視界に捉えた瞬間……。
  爆発したように涙をポロポロと流しながら走ってソファへ周ると、両手をいっぱいに広げて結菜にがっしりと抱きついた。



「う゛うあぁぁぁあっ……ん。結菜お姉ちゃぁぁああん……」

「ミカちゃん……」


「ふぁぁぁぁあああん!  会いたかったよぉぉお。……っうああぁぁあん……。もう何処にもいかないでぇぇえ……っわあああぁん……」



  ミカちゃんのわんわんと泣く大きな声が部屋中に響き渡った時、私は自分の居場所がここだと知らしめられた。

  私はこの家族が好き。
  ……いや、大好きだ。


  この家に家政婦として雇われてあいつに髪を切られた瞬間は、人生最大級に落ち込んだ。
  女の子の髪を許可なく切り落とすなんて最低だと思っていたけど……。

  そこは、地獄じゃなくて幸せへの入り口だった。

  私は彼と出会って過去の古い殻を脱ぎ捨てて自信や勇気を取り戻した。
  そこには沢山の障害があって、1人……いや、周りの人たちに支えてもらいながら一つ一つ乗り越えてきた。
  最後には人生最大限の勇気を振り絞って彼に告白。


  私に足りないもの。
  補わなきゃいけないもの。
  それを身をもって教えてくれたのは、80億分の1の彼でした。

  あいつは自分勝手だし。
  高慢だし。
  俺様だし。
  わがままだし。
  時には小さな子どもみたいに甘えん坊。

  だけど、俳優人生を揺るがせちゃうくらい私を大切に守ってくれる人。
  そして、私を一番に愛してくれる人。



「お兄ちゃん、おしっこ~!」

「またお兄ちゃんの言う事を無視して寝る前にジュースいっぱい飲んだだろ。ほら、早くトイレに行くよ」

「あはははっ……」



  だから私は、そんな彼が世界で一番愛おしいのです。





【完】

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