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第十二章
110.会いに来た堤下
しおりを挟むーー場所は、6月に家政婦のアルバイトの面接をしたコーヒーチェーン店。
私は突然ある人物から連絡があってこの店に呼び出された。
窓から夕日のシャワーを浴びている私は、下校後に直接出向いた事もあって制服姿のまま。
彼の目の前に座っていると、2枚の書類を書いたあの日を思い出す。
……そう。
いま私の目の前に座ってる人物は、LINEメッセージで退職を言い渡してきた堤下さん。
私はいま気まずくて彼と目が合わせられない。
何故なら、会うなと釘を打たれていたにもかかわらず、日向と抱き合ってる写真が報道に取り沙汰されてしまったのだから。
もしかしたら、ストーカー罪で訴える為に注意勧告しに来たのかもしれない。
覚悟はしていた。
でも、実際に本人が目の前に現れると、現実味帯びて怖くなった。
「早川さん」
「はっ……はい!」
「君たちには参りました」
「へっ?!」
どんな事が言い渡されるか覚悟していたけど、彼の口から予想外の言葉が飛び出した瞬間、目が飛び出しそうなくらい驚いた。
「報道の通り、日向には両親がいません。俳優の仕事をしながら一般高校へ通い、人一倍手がかかる妹の世話まで毎日が手一杯でした。1年前に両親が他界してから、事務所のスタッフで彼を支えてきました。
まだ未成年なのに背負うものが多くて辛かったはず。私達も可能な限り私生活の手助けをしてきました。そして、その手助けはやがて誓約書という一枚の書類を生み出しました。もちろん、今後の彼の生活を守っていく為です」
「……承知してます」
「でも、その書類は彼にビリビリに破られました。『俺のいない所で勝手にそんなルールを決めんな』と怒鳴られながら。あの時は高熱で苦しんでたはずなのに……」
「えっ、えぇっ?!」
「報道の通り、彼はあなたを大切に想ってます。それは、家政婦ではなく1人の女性として。私達は彼の将来を思ってバックアップしてきましたが、それが彼にとっては重苦しかったみたいです。
昨日は急遽会見を行いましたが、あれも全てあなたを守る為。家族の件は絶対に話したくないと言ってたのに、あなたを傷つけまいと思うあまりに考え方を変えたようです。彼はあぁ見えても繊細な心の持ち主で、いつでもあなたを一番に想ってますから」
結菜は堤下から日向の心情を聞かされると、胸がキュッと苦しくなった。
あいつ、何やってんのよ……。
自分勝手でわがままで、思い通りにならなかったら気が済まなくて、周りの人を巻き込んで散々迷惑かけてさ。
一体何様のつもりなのよ。
あいつらしいと言えばあいつらしいけど、私の為にそこまで考えててくれたなんて……。
「今回呼び出されたのはストーカー罪で訴える為かと思っていました。堤下さんとの約束を破って彼に会いに行っちゃったから」
「……いえ、あの時は本当に助かりました。3人でミカちゃんを探すのは限界がありましたから。私自身も何故あんな誓約書を作ったのかさえ後悔してます」
「それなら、もう会いに行ってもいいですか? ……あいつに会いたいです。ずっとずっと我慢してました」
「早川さん……」
「今日まで会えなくて苦しくて恋しくて……。目を閉じれば楽しかった思い出ばかりが蘇ってくるんです。でも、目を開ければあいつがいない毎日。会見であいつが片想いと言ってくれても、気持ちに応えてあげれないから私も片想いのままなんです。本当は今すぐ気持ちに応えてあげたいのに……」
結菜は顔を真っ赤にしながらポロポロと涙を流すと、堤下はコクンと頷いた。
「もちろんです。会いに行ってあげてください。早川さんの気持ち伝えてあげて下さい」
「ありがとうございます……」
「……ただ、会見後ですのでマンションにマスコミが張り付いてます。注意して行って下さいね」
心の鍵が開かれた瞬間、私は更に欲張りになった。
今日まで会いたいと思ってたけど、会うだけじゃダメ。
私達2人には、もう憚るものなんてないのだから……。
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