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第十二章
108.あいつ
しおりを挟むーー場所は学校の屋上。
半袖では少し身震いするほどの冷たい季節風が包み込んでくる。
昨日の夕方に結菜に電話をかけてきた杏は、話し合いの場として昼休みにこの場所を選んでいた。
「急に呼び出してごめん。昨日みちるから電話番号を聞いたんだ」
「ううん、いいよ。電話で大事な話があるって言ってたけど、何の話?」
「実は阿久津を退学に追いやったのは私なの。ふとしたきっかけで高杉悟と知ってしまって……。きっと、人目も憚らずに騒いじゃったのが原因だと思う。まさか学校を辞める羽目になるなんてね」
「そうだったんだ……。でも、本人も身バレしたら学校を辞めると覚悟してたし」
「あいつにもそう言われた。結菜はあいつの正体を知ってたんだよね」
「うん……」
「仲良さそうにしてる所を度々見てたから、つい先日そうかなと思ったの。それと、結菜に言わなきゃいけない事があるの」
「えっ、何?」
「今まで意地悪をしてごめんなさい」
杏は申し訳なさそうな表情で深々と頭を下げると、結菜はワッと目を見開かせる。
「私はみんなに好かれてる結菜が心底羨ましかった。だから、憂さ晴らしで嫌がらせをしてたの。……でも、その反面苦しかった。どんなに嫌がらせをしても気分は晴れないどころかどん底に追いやられていったから。
それを阿久津に伝えたら心情を察してくれた。それと同時に『お前自身も変わらないとね』ってね。
でも、裏を返せば不条理に当たられてた結菜の方がもっと辛かったんじゃないかなと思ったの。阿久津はそれに気づかせてくれた。あいつがいなければ、私はずっと同じ場所に佇んだままだった。私ったら本当に情けないよね」
普段は強気な姿勢の杏が涙ぐみながら反省した様子を見せると、結菜は首を横に振って言った。
「情けなくないよ。杏だって強くなったじゃん」
「えっ」
「いま『ごめんなさい』って言ってくれたでしょ。この言葉を伝えるのにどれだけ勇気が必要だったか。確かに杏と仲が悪くなってショックを受けたり嫌だなって思う時はあったけど、私はそれでも仲直りしたいと思ってたよ。だって、私達は親友でしょ?」
結菜が瞳に涙を浮ばせながらニッコリと微笑むと、鼻頭を赤くさせている杏の瞳からジワッと涙が浮かび上がった。
「結菜……。ごめん、ごめんね……。長い間傷つけてごめん」
「ううん、いいんだよ」
私は感情的にポロポロと涙を溢している杏の肩を抱きしめた。
そしたら、私まで涙が溢れてきた。
辛かったのは自分だけじゃない。
杏も長年辛い思いを心に閉ざしたまま苦しい時間を過ごしていたのだから。
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