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第十一章
98.雨粒に紛れている悲しみの涙
しおりを挟む「家政婦が目を離した隙にミカが消えた?」
ーーその一報が伝えられたのは、19時7分。
外は本降りの雨に包まれる中、日向はお菓子のCM撮影終了後に堤下の口からそう告げられた。
再三に渡るミカの脱走。
先日は勝手にいなくならないと約束したはずが、それを簡単に破られてしまうほどミカの心に新たな感情が生まれていた。
「部屋が静かだと思って家政婦が様子を見に行ったら既に居なくなってたみたいで」
「今朝までいつも通りだったのにどうして……」
「家を飛び出す前の様子を伺ったら、どうやら夕方に叔母さんが来てミカちゃんと話をしていたとか。消えた原因に繋がるかどうかわからないけど……」
日向は“叔母”というキーワードに気が止まった。
何故なら、先日叔母が家を訪れた際にミカの面倒を見ると申し出てきたのだから。
ふと悪い予感が過ぎると冷や汗が滲む。
「叔母さんは俺に連絡もよこさずに何を伝えに来たんだろう」
「こんな大雨の日に来るくらいだから、何か重要な話があったのかもしれない」
「重要な話?」
「残念ながらそれ以外考えられない」
俺は叔母さんが自分を介さずにミカに重要な話をしに来たと知った途端、ミカを引き取る話以外考えられなくなった。
先日はきっぱり断ったはずなのに、今度は自分がいない隙を狙って直談判するなんて信じられない。
「堤下さん、今すぐ車を回してくれる?」
「わかった。行き先に心当たりでも?」
「いや、心当たりなんてない。ミカにもっといっぱい話を聞いたり、何処かに連れて行ってあげれば少しは心当たりがあったのかもしれないけど」
「とりあえず車に向かいながらこの先の事を考えよう。地下駐車場で車の準備をしているから楽屋から荷物を取ってきなさい」
「わかった。ありがとう」
日向は表情を曇らせたまま楽屋へ走り向かった。
両親が他界してからも仕事に追われる毎日。
ミカと接する時間は朝晩の合計2時間程度。
その短い時間の中で少し悩みを聞いてあげたり、何処かに遊びに連れてってあげたりすれば、もう少し心に寄り添えたのかな。
日向と堤下がバラバラに行動する中、黒いキャップを被った男がスタジオの入り口付近で2人の会話を聞きとった後、堤下の後をつけてる事がバレないように、一定間隔をとりながら同じく地下駐車場へ向かった。
出発をスタンバイさせている堤下の車に日向が乗り込んで地上に走らせると、ワイパーをフルで回さなければならないほどの大雨に包まれた。
ゴロゴロゴロゴロ…… ドオォォォン……
時より雷の音が車内に突き抜けてくる。
後部座席に座る日向は、震えた指先を組んでミカの無事を願った。
一体何処へ行ったんだろう。
まさか叔母さんの家に?
……いや、もしそうだとしたら家政婦に告げるだろう。
じゃあ、幼稚園?
5歳の足じゃバスに乗らないと行けないし、それ以前にお金を持たせてない。
もしかして、近所の公園に?
屋根すらないほど小さな公園なのに行くはずがないか。
日向は身体を震わせながら手で顔を覆っていると、堤下はバックミラー越しに日向の様子を伺う。
「大丈夫? 今日は雷が酷いけど……」
「それより、今はただミカの身が心配で。行く当てがわからないなんて家族なのに情けないよな」
「そんなに自分を責めるな。林さんも一緒に探してくれてるから、マンションに到着したら分担して探そう」
「ありがとう……」
雷が鳴る度に車内は揺れる。
心配が尽きない心はトラウマにも苦しめられていた。
……そして、ミカの無事を祈りながら車はマンションへと向かう。
ーー19時53分。
一旦家に戻った後、スタッフと分担して近所を探し回った。
ミカが戻る可能性もあるので、家政婦には家で待っててもらう事に。
日向と堤下と林の3人は、雷が伴う大雨に包まれながら子どもが行きそうな場所に向かった。
傘にボツボツと叩きつける大粒の雨。
雨風が視界を阻んで地面を濡らす。
道路を走行している車のヘッドライトが暗闇のアスファルトに反射していて余計に視界が悪くなっていた。
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