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第六章

53.気になる陽翔

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  ーー終礼後。
  日向はリュックを背負って人を避けながら教室から廊下に出ると、教室から飛び出てきた陽翔が前へ周って道を立ち塞いだ。



「阿久津。少し話がしたいんだけどいいかな」

「……なに?  急いでるんだけど」


「さっき屋上で早川と2人きりで喋ってなかった?」

「それが何か?」


「いやっ、その……、じゃれあってるように見えたから2人は仲がいいのかなと思って……」



  陽翔はそれとなく気持ちを詮索するが、気まずさのあまり目線を下ろした。
  一方、そのタイミングでみちると一緒に教室から出てきた結菜は、日向たちの異変に気付くとみちるにバイバイをしてからカバンを持ち直して聞き耳を立てながらそっと近付く。
  


「だったら、何?」

「えっ……」


「お前さ、先日まで早川の事をオール無視だったのに、髪を切った途端態度を急変させるのっておかしくない?」



  厚い前髪と鼻まで覆っている間のメガネの奥から向けられている眼差しは、陽翔の心を冷たく突き刺す。
  状況が悪化の一途をたどると、結菜はジワリと冷や汗が滲み出た。

  あいつ……。
  二階堂くんに向かって何を言ってるの。
  そう言えば、あいつは差出人が私の名前のラブレターの件を知らないんだった。



「いや、そーゆーつもりじゃ……」
「日向っ!  そんな言い方、二階堂くんに失礼じゃない」



  2人の間に割って入ったまでは良かったけど、すぐに後悔した。
  普段から日向と呼び慣れてしまっているせいか、思わず呼び捨てに。

  やっばぁぁ!!
  私ったら二階堂くんの前でなんて事を……。
  親しい仲だと勘違いされちゃう。

  結菜は焦って両手で口を塞ぐと、日向は鼻で笑って結菜に指をさす。



「こいつの趣味オタゲーなの知ってる?  中高生で流行ってる王子様の恋愛ゲーム。めっちゃどハマりしてるの」

「ちょっとぉ!  いきなり余計な情報吹き込まないでよ。いま私の趣味なんて関係ないでしょ。……二階堂くん、ごめんね。あっち行こ」

「……あ、あぁ」



  私はこれ以上の衝突と悪化を避ける為に、二階堂くんの腕を引いて日向と逆方向へ向かった。

  あいつったら、マジで最悪。
  二階堂くんに突っかかるどころか私の秘密まで暴露する必要がある?
  これがあいつなりのエンジョイなの?
  だとしたら、完全に方向間違ってるんだけど……。
  若しくは、二階堂くんとの仲を引き裂くつもりなのかな。

  結菜が不機嫌な足どりのままズカズカと歩いていると、陽翔はより一層不安な表情が隠せなくなった。



「早川。もしかして阿久津と仲良いの?」

「いいや!!  そんな事ないっ!!  全っっ然仲悪い!」


「そう?  でも、さっきは阿久津の事を『日向』と呼び捨てにしてたし、阿久津は早川の趣味も知ってたから」



  ううっ……。
  二階堂くんの口から聞かれたくない質問が飛び出してくる。
  でも、墓穴を掘ったのは紛れもなく自分。
  本音はあいつに丸投げしたいところだけど、あいつに任せたら更に酷い事になりそうなので、食い止めるのは自分しかいないと思った。



「日向とは……、ええっとぉ……、おっ、幼馴染なの!」

「えっ!  阿久津と幼馴染?」


「うっ、うん……。だから、しつこくかまってきてさ……。人の趣味までバラすなんて最悪だよね」

「へぇ、そうなんだ。初耳」



  私も自分で言っておいて初耳だよ。
  でもね、これしか逃げる方法が見つからなかったんだよ。
  二階堂くん、嘘をついてごめんね。

  本当は仕事で毎日会って身の回りの世話をしてるだなんて知られたらショックだよね。
  あいつは最悪だけど、二階堂くんに嘘をついてる私も最悪だよね。

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