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第三章
26.あいつはBランク
しおりを挟むーー放課後。
結菜はみちると教室でバイバイしてからいつものように屋上へ行き、階段の建物の後ろに座ると、スマホを手に取ってリア王を起動させた。
「はぁ~。やっぱりここが一番落ち着く。友達と一緒にいるのも楽しいけど、ここで1人でゲームするのも最高な時間だもんね」
ひとり言を漏らしながらハルトに幸せな報告をしようと思ってチャット画面をタップしていると……。
「普段からこんな所まで来て1人でゲームしてんの?」
「へっ?」
先日と同じく階段屋根の上部から日向の声が降り注いだので目を向けた。
日向は屋根から伝わるハシゴを降りてくると、結菜の横に腰を下ろしてスマホをひょいと取り上げる。
「やっ……、やだ! 私のスマホを返してよ」
「へぇ、このキャラクターの名前ハルトって言うんだ。……ふぅん。同じクラスの二階堂陽翔と一緒の名前ね~」
手を伸ばしてスマホを取り上げようとするが、日向は立ち上がって届かない位置までスマホを掲げる。
「ちょ、ちょっとぉ。私のゲームなんだから、どんな名前にしたっていいでしょ?」
「お前の運気を爆上げする為に名前を変更しとくよ。……ヒナタ……、おしっ、完了!」
「ちょっと待って!! 何よ、ヒナタって! 勝手に人のゲームのキャラクターの名前を変えないでよ」
「どうして? お前は俺の家政婦なんだから、ご主人様の事だけを考えればいい。それに、あいつより俺の方がイケメンだろ?」
彼は逆光を浴びながら平然とした顔で言うと、それまで取り上げていたスマホをホイと目の前に差し出した。
顔はそのままなのに、名前だけ変えられてしまった元ハルト。
心なしか寂しい表情に思えて仕方ない。
私は高慢で身勝手な彼に呆れて言葉が出なかった。
「インスタのフォロワー数500万人の俺がSランクなら一般人のあいつはBランク。俺はナンバーワン以外興味はない。勝手に名前を変更したら時給下げるからな」
「何よ、それ~!! 自分勝手過ぎる」
ハルトは心の恋人だったのに、あいつのせいで自分勝手なヒナタになってしまった。
しかも、時給で人の心を操るなんて最低。
私には生活がかかってるというのに……。
諦めモードに入ってスマホをポケットにしまった。
これ以上手に持ったままだと二次被害が起きそうな気がしてならないから。
「ねぇ、どうして昼間は杏から救ってくれたの?」
さっきはちゃんとした答えが得られなかったから再び聞いた。
すると、彼は壁に背中をもたらせながら言った。
「ああ言ったら、渡瀬はどーゆー反応するかな~と思って」
「……あんまり変な事をすると飛び火喰らうよ。杏は負けず嫌いだから」
「別に構わないよ。高校生活をエンジョイするには、波風立った方が面白いんじゃない?」
「どれだけ心が広いのよ」
「俺、仕事だからもう行くわ。じゃあ、結菜。また後で」
「ちょ……ちょっと、呼び捨て……」
彼は私の言葉をシャットアウトするかのように、背中を向けたまま手を振って校舎内へと戻って行った。
なんか、今日1日彼に振り回されっ放しだった気がする。
私は再び同じ位置に座ると、ポケットからスマホを取り出してリア王を開いた。
『今日のハルト、カッコよかったなぁ。でも、あいつは自分がSランクで陽翔くんがBランクだなんて……。どれだけ自分に自信があるのよ。なんか、変な人』
ゲームの中のハルト……、いやっ、ヒナタに今さっきのグチを溢していると……。
『ユイナ、どうしたの? 今までは人の文句を言うような人じゃなかったのに……。残念だよ』
驚くべき返答が画面に映し出されていた。
それまではキレイな言葉を使って優しい王子様に育て上げていたはずなのに、私は無意識のうちに醜い自分をさらけ出していた。
ざっ、残念?!
ハルト……いや、ヒナタに残念と言われてしまうなんて。
何だか失恋した気分だよ。
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