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第二章

18.私の気持ち

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  私は食器の片付けを終えてからリビングに散乱しているおもちゃを一つ一つ拾っていると、ミカちゃんを寝かしつけてリビングへ戻って来た彼はソファへドカッと腰を落とした。

  家政婦としてこの家に来てから3時間経つけど、私達は相変わらず微妙な空気に。
  彼とは仲が良かった訳でもないし、いきなり人気俳優の高杉悟と言われても心の準備が整わない。
 


「どうしてこの仕事を引き受けたの?」



  私は背後からの問いかけに、散らばっているクレヨンを掴み上げた手が止まった。



「先日までここで働いてた人が私の叔母でね。交代要員が見つからなくて困ってるようだったし、時給が良かったから。でも、阿久津くんの家だと知ってたら引き受けなかった」

「阿久津くんじゃなくて日向って呼んで。お前を雇ってるのは俺だし」


「えっ、でも私達親しくないのに……」

「今は俺の家政婦でしょ。なら呼んで」



  高杉悟が俺様キャラなのは以前から知ってるけど、なんか押し付けがましい言い方。
  もしかして、プライベートでも俺様なのかな。
  はぁ、参ったな……。



「ひ……なたくん」

「呼び捨てじゃないと返事しないよ。ひ・な・た」


「待って待って!  いきなり呼び捨てなんて出来ないよ。しかも雇い主に向かって……」

「俺がいいって言ってるんだからいいの。ほら、呼んでみ」


「ひな……た……(強引だなぁ)」

「……で、どうして俺の家だったら引き受けなかったの?」


「私がクラスの女子にパシられてるのを知ってるでしょ?  出来れば自分の事を知らない人の所で働きたかった。私は自分が嫌いだから……」



  先日まで着ぐるみバイトをしてたのは、私という存在を印象に残らせない為。
  家政婦の仕事の決め手も同じ。
  家の中にこもっていれば、関係者以外の人と交流を持たずに済むと思っていたから。
  でも、それがまさか阿久津くんの家だったなんて……。

  

「自分が嫌いなら変わればいいのに。思ってる事を心に溜め込んでるから辛いんじゃない?」

「でも、人はそんな簡単に変われないよ」


「どうして?」

「人に嫌われる怖さを知ってるから……」


「でも、自分を守ってるだけじゃ強くなれないよ。思った事はちゃんと伝えないと」

「阿久津くんには私の気持ちなんてわかんないよ」


「阿久津くんじゃない。日向!」

「うっ……。日向……(どうしても呼び捨てにさせたいのね)」


「お前の気持ちがわからないから聞いてるの」



  彼は私の気持ちなどお構いなしに土足で心に踏み込んでくる。
  過去にどんな事情を抱えてるかさえ知らないから。



「今の関係を壊したら誰からも話しかけてもらえなくなるのが怖いの」

「えっ……?  ちょっと待って。お前はいま何を繋いでるの?」


「杏が……。少しでも気にかけてくれると嬉しくて。無視とかもう無理だから……」

「言ってる意味がわかんない。相手の都合のいいようにパシられてんのに頭にキテないの?」


「だって私が悪いから……。教室の中で透明人間になるよりパシられてた方がマシ。女は集団意識があるから誰かと繋がっていたいって思うんだもん。日向には私の気持ちなんてわかんないよ!」



  心が痛くて感情的に言い返したせいか彼の声が途絶えた。
  悔しさが溢れるばかり掴み上げたクレヨンをぎゅっと握りしめる。

  すると、彼はソファから立ち上がった後、スッと横を通り過ぎてキッチンへ向かい、引き出しを開けてガチャガチャと音を立てた後に私の背後へ周った。

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