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44.新事実

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 ――場所は、学校の通学路の一本先にある川の上にまたがっている橋の上。
 俺は下校中に木原に「話がしたい」と呼び止められてここへ連れて来られた。
 どーゆーつもりで俺を呼び出したかわからないけど、先行く木原の背中は無言を貫いていた。
 木原は橋の手すりに肘をかけると、流れ行く川に目線を当てながら言った。


「加茂井……。今まで酷いことをしてごめん」

「えっ」

「俺が悪かったよ。反省してる」

「木原……」


 てっきり矢島の件で話があると考えてたのに、予想外の謝罪に拍子抜けした。
 すると、木原の金髪は風に誘われるように川の方へなびいていて、見たことがないくらい穏やかな瞳をしている。


「ミキの件、誤解してた。お前がミキを奪ったと思っていたけど、お前は俺とミキが付き合ってたことを知らなくて付き合い始めたんだってね」

「えっ、つまりお前が先にミキと付き合ってて、俺が後から……」

「そーゆーこと。実は俺、ミキから交際してることを公にしないでって言われてこっそり付き合ってたんだ。そしたら、いつしか裏切られてた。この件は矢島が直接ミキの所に行って確認してきたらしい」

「だからあいつは先日……」


 俺は矢島の話を聞かないまま突き放してしまった。『どうせあいつと仲直りしろって言うんだろ』と。裏にこんな驚愕な事実が隠れていたことさえ知らずに。


「もしかして、矢島からその話を聞いてたの?」

「……いや、聞いてあげなかった。ミキに会いに行ったとは聞いたんだけど、聞きたくなかったから余計なことをするなって跳ね返しちゃって」

「そっか。結局俺らはミキに騙されたままお互いを跳ね除けるだけで向き合う力がなかった。どちらか一方がその件について問い詰めれば問題は解決したかもしれないのに」

「たしかにそうかもな。ミキを奪われて悔しいって思ってたのはお前も一緒だったなんて知らなかったよ。でも、その仕返しが沙理だったんだよな」

「ミキのことが本気だった分、お前が許せなかった。あの時はようやくミキと付き合えて幸せだったから、二人が手を繋いで歩いてる所を見た時は一瞬で地獄に突き落とされたよ。だから、お前にも同じ気分を味合わせてやろうと思って沙理を狙った。それが間違いだったと気づかないまま……。でも、矢島からミキの件を聞いて反省した。俺はミキと変わらないくらいお前に酷いことをしていたんだってね。いまでは後悔してる」


 俺らがあの時ちゃんと向き合っていれば、お互いここまで引きずることはなかった。それに、沙理も奪われなかっただろう。
 結局表面的な所しか触れなかったのはお互い未熟だったから。
 たしかにミキも木原も悪いと思うけど、納得がいくまで話し合わなかった俺にも少なからず原因はある。だから、手すりに背中をもたれかからせながら言った。


「許さない」

「えっ」

「もう一度同じことをしたらの話だけどね」

「加茂井……。もしかして、俺を許してくれようと……」

「仕方ねぇだろ。終わった話を蒸し返しても何も始まんないし意味ないから」

「ごめんな。……あっ、それと、矢島を諦めることにしたよ。宣戦布告しといて今さらだけど……」

「えっ、どうして?」

「あいつさ、いつもお前のことだけを考えてた。俺らに仲直りしてもらいたくて1週間くらい話を聞き出してきたし、ケンカの原因を突き止める為に3日間もミキの家の前で粘ったんだって。あいつのメモ魔加減には参ったよ。しかも、ミキの家に行くなんて思ってもいなかったし」

「3日間もミキの家に……。俺、そこまで聞いてない」

「ミキもそんなに粘られたら口を割るしかなかっただろうな。矢島のそーゆー真っ直ぐな所を尊敬してた。だから付き合いたかったのに、なびかない上に延々とお前の話ばかり。俺に落ちない女なんていなかったのに、簡単に歴史を塗り替えくるから俺のプライドがズタボロだったよ。でも、それだけお前が好きなんだなって気付かされた」

「木原……」

「もし、少しでも矢島に気があるなら気持ちに応えてあげて欲しい。俺は矢島に幸せになって欲しいから」


 俺は木原の話を聞いてから本調子が狂った。
 どうして二度も女を奪うんだと思って恨んでいたけど、そこには新事実が隠されていたなんて。
 しかも、矢島は俺達の関係を回復させるために動いてくれてたのに、俺は話をまともに取り合おうとしなかった。
 その上、都合に合わせて偽恋人として動いてくれていたのに、俺は彼女の気持ちをなに一つ考えてやれていなかった。

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