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第二章 アーレントと友三爺さん

第22話 優秀な遺伝子

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 目の前に現れたのは、サイモンさんの14歳の長女、カーシャさんだった。彼女の身長は俺とほぼ同じで、服の上からでもメリハリのある体つきが分かった。

 あまりじろじろ見るのは失礼なので、見ないようにしているのだが...。異世界の女性って成長が半端ないな。15歳で大人っていうのも、これなら納得する。いや、してしまう。

 ブロンドヘアーをサイドでまとめ、切れ長でクールな印象を与えるキリっとした目。まさに”できる女”という表現がぴったりとハマる感じだ。

 さすがは商人の娘。バリバリ働く、べっぴんなキャリアウーマンになりそう。

 カーシャさんは「どうぞ」と俺にグラスを手渡しながら、「お疲れではないのですか⁉︎あのような状態だった祖父を、あそこまで回復なさったのに...⁉︎まるで何事もなかったかのように...。本当にパパの言った通りのお方...」と言って、少し驚いた表情で俺を見つめている。

 驚いているカーシャさんを見とれていると、俺の視線に気が付いたのか、カーシャさんは頬を赤らめ、「ほ、本当に凄いお方...」と顔をそっと背けながら呟いた。

 そして、先ほどまでいたはずのサイモンさんとジュージュンさんの姿が見えない。い、いつの間に消えた?娘を置いて席を離れるなんて...。こんな一回り以上年の離れたお嬢さんと、俺は何を話せばいいの?それも異世界ですよ⁉誰かプリ~ズ!

 しかも、「あ、あのねカーシャさん...」と話かけたところ、「カーシャでいいです!”さん”付けをしないで下さい。太郎様!!」と言われてしまった。

 え、ええ...⁉︎そんなに必死になる事なの?

 「で、でも...」と少しごねると、「莫大な魔力を持ち、惜しげもなく”飲みつぶ”の皆さんを治療し、わが祖父まで...。神様のようなお方から”さん”を付けられるなんて恐れ多すぎます!!本来ならサイモン、ジュージュンで結構なのに...うちの両親ときたらっ!」と、食堂の片隅にいた自分の両親を見つけ出し、きっと睨んだ...。

 こ、こえ~。はっきりとした子だな。サイモンさんやジュージュンさんとはまた違うタイプのようだ。うん、気を付けよう。

 その後はお互い、何を話していいか分からず、何とも言えない時間が流れた。俺はカーシャさん、いや、カーシャから受け取ったグラスを握りしめていた。お父さんやお母さんと違い、どちらかというとカーシャは無口の様だ。

 どうしよう...。せっかく向こうから話しかけて来てくれたのに...。つまらない男と思われるのも嫌だけど、思われていると思う...。誰か助けて...。こんな僕を助けて下さい...。

 困っている俺の心の叫び声が聞こえたかどうかは定かではないが、窮地を救うべく優秀な助っ人が、情けない俺を見かねて駆けつけて来てくれた!!

 わん、わん、わん!!

 俺の足元で源さんが吠えた後、”ご主人様、大丈夫ですかだわん⁉︎”と念話で語りかけてきた。

 出来る忠犬、源さん!戦闘以外でも窮地が理解できるってってすごくない...?超優秀!!

「まあ、可愛らしい!!すごく愛らしいアーモンドアイをしている!!」と言って、源さんを抱きかかえると、源さんの後ろ脚のふくらはぎを”ぷにぷに”と触り始めた。

 やっぱりサイモン一家って、”ふくらはぎフェチ”なのかな?

 源さんのおかげで緊張も解け、カーシャとたわいもない会話を取れるようになった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 そんな和やかな雰囲気の中、カーシャの年の離れた妹たち、キャロンとマーシュンが近寄ってきた。末っ子のマーシュンは元気よく「お姉ちゃん!」と叫びながら、カーシャのふくらはぎに抱きついた。

 それを少し離れた場所から見ていた次女のキャロンは、マーシュンの行動を「こ、こら、マーシュン!」咎めようとした。カーシャは源さんを抱えたまま、2人に目線を合わせるように屈み、「マーシュンは太郎様にお礼を言ったの?」と優しく尋ねた。

 マーシュンが「うん!!」と元気に答えると、次女のキャロンがその光景を見て、マーシュンの手を引っ張った。

 「ダメよ、マーシュン!カーシャお姉様の邪魔をしちゃダメ!せっかくいい雰囲気だったのを壊したら、お姉様に悪いわ!優秀な””を手に入れるチャンスなの!!ほら、源さんをあげるから!!」

 キャロンはカーシャの腕の中から源さんを”ひょいっ”と奪い、 マーシュンに渡して引っ張る様に他の場所へ移動していった。

 5歳児...ませているな。しかし、そんなことを面と向かって言われると逆に意識して、何も話せなくなる。源さんの存在が好いクッションとなってくれていたのに...。肝心の源さんが奪われてしまった。

 カーシャは「優秀な””って、どこでそんな言葉をあの子は覚えたのよ...⁉︎でも、確かにその通りね...」と頬を赤らめてブツブツと呟いている。

 そして...お互いに目が合うと、素直におしゃべり出来ない...。

 源さ~ん、カムバック、ヒア~!!

 心の中で叫ぶと、”無理ですわん!!二人から”ふくらはぎプニプニ攻撃”を受けていますわん!”と念話で返って来た。心の叫びが聞こえていたのね。俺の魂の叫びが...。それに、”ふくらはぎプニプニ攻撃”を受けているのね...。

 サイモン一家って、本当にふくらはぎが好きなんだな。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 源さんの代わりに、俺のおたおたする姿を見かねて助けに来てくれたのが、”飲みつぶ”のご意見番こと、バロンとエメリアだった。

 バロンが葡萄酒をボトルごと数本抱えて俺の元に近寄ろうとすると、「こら、邪魔しちゃだめでしょ」と言いながらも、「カーシャお嬢様、私たちも同席してもよろしいかしら?」と少し伺うように聞いてきた。

 カーシャも渡りに船だったようで、ほっとした様な笑みを浮かべながら「エメリアさんバロンさん!一緒に食べましょう!飲みましょう、話しましょう!」と二人に言った。

 ごめんね、カーシャ。14歳の子に気を使わせてしまって。  


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 バロンとエメリアは改めて、俺にお礼を伝えてきた。


 バロンが「あの時は...本当に死を覚悟したわい」と言うと、エメリアは「そうよね。本当についていないと思ったわ。死ぬ時まであんたと一緒だと思ったら」と、バロンに向かって可愛らしく舌を突き出した。

 バロンはそんなエメリアの態度に慣れているらしく、「ふんっ」と受け流し、新たな葡萄酒をボトルごと一気飲みしてしまった。

 すげえ飲みっぷりだな。さすがドワーフだな。

 俺の知っているドワーフのイメージそのものだ。そんなバロンの飲み方に対して、エメリアが「もう!もっと紳士的にグラスで飲みなさいっていつも言っているでしょ!」とつっかかる。

 まるで夫婦漫才みたいだ。そんな光景を見て、カーシャも「ぷっ」と笑った。そして...。

「本当にお二人さんは私が小さい頃から変わっていないですね。ずっと父や祖父の傍にいて、二人を支え、守ってくれた。時には私も...」と言って、すごく懐かしそうな表情をした。

 カーシャに聞いてみると、このチーム”飲みつぶ”はアーレント商会専属の様だ。そして、”飲むつぶ”のメンバーは流動的で、バロンとエメリア以外は固定されていないと教えてくれた。

 「逆に言えば、このお二人はずっと固定されているんです。お二人だけなら冒険者レベルはB、いえ、Aはあるでしょう。でもアーレント商会を守る護衛の育成係をして下さっているのです!」とカーシャは誇らしげに二人の事を俺に教えた。

 「ほほほほほ...カーシャお嬢はよく見ていらっしゃる。まあ、若い連中と仕事をするのは、自分も楽しめるからな。悪い気はしないからのぉ。我らドワーフとエルフは長命族じゃ。若者たちと共に旅をすることで、それだけ思い出が増える。幸せなことじゃよ」

 そう言ってバロンはまた、持っている葡萄酒のボトルをらっぱ飲みでぐびぐびと開け始めた。そしてそれは、先ほどのデジャブのように...またエメリアに見つかり...叱られた。

 この二人の教育を受けた者たちは、アーレント家直属の部下として、または支部の護衛隊に配属されるようだ。センスのありそうな者を、各孤児院でスカウトしているらしい。

  「ダイスお爺様のお部屋にいた使用人のロイヒも、この二人の教え子なんですよ!」と、カーシャは衝撃的な内容を教えてくれた。

 白髪のひげを生やした、ダンディーで優しそうな使用人さんの事か!!

 その話に割り込むかのように、食べていたチーズを飲み込んだ後、バロンが...。

 「ロイヒは孤児院にいる頃から、センスの塊のような若者だったからのお。斥候の才能がずば抜けておった...じゃが、そうはいっても友三様と同じ人族。老いには勝てんの...」とつぶやいた。

 「バロン、あんた...」

 そう、どことなく寂しそうにバロンは呟くと、エメリアにわざと止めてもらいたいかのように、彼女の目の前でラッパ飲みで葡萄酒のボトルを空にした...。
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