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第八章 | 守銭奴商人 vs 性悪同心
守銭奴商人 対 性悪同心 其ノ伍
しおりを挟む「だから、気をつけろって言ってるだろうに!」
「ごめんごめん」
喜兵寿と直がこそこそ話をしていると、大きな影がぬっと近づいてきた。
「ちょっとそこのお困りのお兄さん~♡」
振り返ると、熊のように大柄な男が立っていた。なんというか威圧感がすごい。男はぎょろぎょろとした目を細め、楽しくて仕方ないといった様子で二人に話しかけてくる。
「そうそう、お兄さんたちのこと♡」
「……何か御用ですか?」
喜兵寿が警戒した声出す。長らく下の町で商売をやっているが、こんな男のことは見たこともなかった。襟元のはだけた着物に、奇妙な装飾品。どこかで目にしたことがあれば、絶対に忘れない風貌の男だ。
「ちょっと、やだあ。そんな怖い声出さないでちょうだいよ~」
男はくねくねと身をよじると、喜兵寿と直の耳元でボソリと呟いた。
「酒蔵に排除されているんでしょう?あいつら、うちの蔵にも来たわよ。酒を造らせたらしょっぴくぞって」
「!!!」
「嫌な鼠が嗅ぎまわってる。ほら、見えるでしょう。あの店の角にいる薄ら禿のじじい。ぶっさいくよねえ」
二人が慌てて目をやると、痩せぎすの小さな男がさっと物陰に隠れるのが見えた。
「ここは人目が多すぎる。よかったらわたしの蔵にいらっしゃい♡」
そう呟くと、男は踵を返しすたすたと歩きだした。
「なんだあいつ。めちゃくちゃ胡散臭いんだけど。胡散臭いのに、なんかいい匂いがするし!」
直は男に向かってべえっと舌を出す。
「……やはり俺たちに酒を造らせないようにしていたのか」
男の話が本当なのであれば、やはり村岡が水面下で動いているに違いなかった。だとしたら下の町の酒蔵、どこにあたっても断られるに違いない。目の前の男が信用できるかわからなかったが、今はどうこう言っている場合ではなかった。
「とりあえず、ついていってみるしかなさそうだな」
しばらく歩いた町はずれに、男の酒蔵はあった。古い建物が多い下の町において、その建物まだ目新しく、真っ白な暖簾が風にはためいている。
喜兵寿はしばらくきょろきょろとあたりを見渡していたが、驚いたように口を開いた。
「ここは確か麹や(こうじや)ではなかったか?!」
「そうそう♡うちは代々麹や。でもこれからの時代、麹なんて儲からないだろうなーと思って酒蔵に改築したの。時代の先読みってやつ」
男は嬉しそうに笑うと、二人を手招きした。
「さ、立ち話もなんだし入って入って♡」
酒蔵の中はがらんと広かった。酒造りの道具もまだ新しいのだろう。そこかしこから木のにおいがする。
「自己紹介が遅れちゃったわね。わたしのことは『金ちゃん』とでも呼んでちょうだい♡お金が大好きだから金ちゃん。覚えやすいでしょう?」
にっこりと笑う金ちゃんを見て、直はその肩をバンバンっと叩いた。
「金好きだから金ちゃんとか!お前変な奴だな。俺は直!こいつは喜兵寿。よろしくな」
直が一気に打ち解けるのを見て、喜兵寿はため息をついた。
「それで?捕まる危険性があるのに、どうして俺たちに声をかけたんだ」
「え~なんでって♡」
金ちゃんは笑顔を崩さぬまま、ワントーン低い声で言った。
「困っているってことがお金で解決できるってなったら、たくさんお金出してくれるかもしれないじゃない」
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