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第七章 |老舗酒蔵の次男、麹で覚醒する
老舗酒蔵の次男、麹で覚醒する 其ノ弐拾伍
しおりを挟む『ビールを造らなければ座敷牢行き』
その約束からちょうど1ヵ月が経とうとしていた。思えばかなりいろいろなことがあった1ヵ月だった。殺されそうになったり、船で堺に向かい、沈没もしかけた。そもそもタイムスリップしてきたのも1ヵ月前なのだ。
右も左もわからない、ビールという存在すら知られてない場所で、よく醸造に必要な原材料、麦芽、ホップ、酵母(蔵つき酵母による自然発酵に挑戦するつもりだ)が揃ったものだ。
直は「まじですごいな、俺」と頷きながら、日本酒を煽った。
まあ麦芽に関しては振り出しに戻ったわけだけれども、これもきっとどうにかなるに違いない。
残された時間は2か月。蔵つき酵母による発酵がどのように進むかわからない以上、最低でも1ヵ月以上は醸造期間を取っておきたかった。
だとすれば、麦芽を使わない、日本酒技術を応用したビールの醸造方法を考えるのに使える時間は1ヵ月ということになる。
「1ヵ月か……」
直はふむ、と頭を捻った。
「意外に時間あるな。別にそんな急がなくてもいいか。一度旅の疲れを癒すために、温泉にでも行って、酒飲んでダラダラとかしようぜ」
「いいことを思いついた!」と目を輝かせる直を、喜兵寿は思いっきりひっぱたいた。
「この能天気が!出来るかどうかもわからんのに、よくそんなことが言えるな」
「いってぇなあ。チャラチャラした見た目の癖に、喜兵寿は細かいんだよ。ここはどーんと構えてようぜ」
「どーんとなんて構えられるものか!なんだ『日本酒技術をつかったビール、一緒に考えようぜ!』って。俺はびいるを造ったことがないんだぞ?!」
「大丈夫だって。ブルワーと杜氏が知恵を合わせりゃ、必ずできる!」
「俺は杜氏じゃないし、酒造りをしていたわけではない」
「知ってる知ってる。でもほら、喜兵寿って酒造りのセンスあると思うんだよね。それに俺は天才ブルワーだし?」
喜兵寿はげんなりした顔でため息をつくと、直の首根っこを掴み立ち上がった。
「そろそろ帰ります。幸民先生、引き続きつるのことをよろしくお願いします」
「なんだよ、もうちょっと飲んでいこうぜ!」
直はバタバタと暴れたが、抵抗もむなしく喜兵寿に引きずられ幸民宅を後にした。
「明日は朝から酒蔵だ。お前の適当さに付き合っていたら、命がいくつあっても足りないからな」
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