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第七章 |老舗酒蔵の次男、麹で覚醒する

老舗酒蔵の次男、麹で覚醒する 其ノ拾陸

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しかし何度やっても結果は同じだった。いままで出たことのない「渋み」が麦汁の中を占拠してくるのだ。

3度目の麦汁に口をつけている際、つるが「ひょっとしたらわたしの麦芽つくりに問題があったのかもしれない……」と呟いた。その表情は暗く、落ち込んでいるのが見てわかる。

まったく見たこともないものを、ひとりで作ったのだ。そりゃあ心配にもなるだろう。直はつるの肩をバンバンと叩くと、「麦芽に問題はない!見ればわかる!」と明るく笑った。

そう、麦芽の作り方自体には問題がないはずなのだ。それはつるの几帳面さが見て取れる仕上がりで、直の指示通りにきちんと管理されているのがわかった。だとしたら、この渋みの原因は一体どこからくるものなのか……

直が考え込んでいると、台所脇のがガタガタと動いた。誰かが外からのぞき込もうとしているのを察し、喜兵寿と幸民、そして小西は身構える。

「誰だ!」

死んだことになっているつるは、慌てて物陰に隠れる。まさか村岡に居場所がバレたのか……いつでも飛び掛かれるよう全員が警戒する中、障子が開いた。

「きっちゃああああああん」

そこにいたのは夏だった。大きな目を見開いて、真っ赤な顔をしている。

「……夏!?なぜここに?」

喜兵寿と直がここにいることは、誰にも言ってないはずだ。

「きっちゃんのにおいがしたから!帰ってきたんだねええええ」

そう言うと、夏はぼろぼろと泣き出す。

「そうだ、夏は喜兵寿の居場所がにおいでわかるんだった!GPSいらず!すげえな」

けらけらと笑う直の横で、喜兵寿は困り顔であたふたとしている。

「なにもそんなに泣くことはなかろう」

「会いたかったあああああ。きっちゃん……つるちゃんが、つるちゃんが……」

「つる」という名前を口にしたとたん、夏の声は悲鳴に代わる。

「わたし、つるちゃんを守れなかった。ごめんなさいいいいい」

そう言って夏は泣き崩れる。

「いや、夏、つるは……」

口を開きかけた喜兵寿の腹を、横から幸民が殴った。

「どこで誰が聞いておるかわからん。迂闊に口にするでない」

「……はい」

するといつの間にか外に出ていた小西が、夏を担いで戻ってきた。

「やめて!わたしには心に決めた人がいるの!」

ぎゃあぎゃあと騒いでいた夏だったが、部屋の中にいるつるの姿を見た瞬間、完全にその動きが止まった。口をあんぐりと開けたまま、目を白黒させている。

「うるさい奴だな。騒ぐと人が集まってくるだろ。死人を見られたら大変だ」

幸民はそういうと、にやりと笑った。
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