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第六章 | クーデレ豪商の憂鬱と啤酒花
クーデレ豪商の憂鬱と啤酒花 其ノ拾参
しおりを挟む「嵐ぐらい予測できんかったんか!?」
「なんでワシらが金を払わにゃならんのや」
会合の行われている場所に到着すると、複数人の怒声が建物の外まで響いていた。
「うわ、やっべえな。ねね大丈夫か?!ってか俺らが入って悪化したりしないか?」
「……わからん。とにかくまず状況を確認してみるしかないだろ」
慌てる二人を横目に、小西は扉をがらりと開けた。
「だれじゃあ!こちとら取り込み中や……って小西様!」
小西は「少しは役に立てる」と言っていたが、実際にその効果は絶大だった。小西を目にした瞬間、男たちが一斉にひれ伏す。
「このようなむさくるしい場所に来ていただけるとは……本日はどのような御用事で?」
小西は黙ったまま男たちの横を抜け、中央で土下座していたねねの前に立つ。
「お主が新川屋のねねか?」
突然名前を呼ばれたねねは、驚いたように肩を震わせる。
「……はい、おっしゃる通りでございます」
「そうか。面をあげよ」
小西の言葉に、男たちがざわめく。ねねも何が何だかわからない、といった表情で戸惑っていたが、戸口に喜兵寿と直の姿を見つけると、口をぽかんと開けた。
「小西様!新川屋は船に積み荷を投げ捨てたというのに、損失額を均等に割ってほしい、などとふざけたことを言っておりまして」
ひょろりとした体躯の、キツネ顔の商人が小西に駆け寄る。
「そもそも本当にこれほどの積み荷を捨てる必要があったのかも定かではありません。聞けばこのねねという女、船頭になってまだ間もないという話。冷静な判断ができたとは到底思えません」
キツネ顔は唾を飛ばしながら早口でまくし立てる。
「女に船を任せる、ということ自体おかしいんですよ。女は所詮女。男と同じように商いの世界で働けるはずがないんです。今後もこの女が船頭を続けるというのならば、新川屋に仕事を頼むのは辞めたほうがいいかと」
「……っ」
ねねは悔しそうに唇を噛む。小西はその肩に軽く触れ、言った。
「新川屋、仕事を頼めるか?」
「え……?」
「ちょっと小西様!一体何をおっしゃっているのですか?」
キツネ顔をはじめ、その場にいた男たちがざわつく。小西はそれを無視して、ねねに微笑みかけた。
「ワシはこれから新たな酒を造りに下の町へと向かう。噂によれば新川屋の樽廻船はえらく速いそうではないか。どうだ、乗せて行ってはくれないか?」
そういうと、小西は胸元から布袋を取り出した。
「これは前金だ。受け取ってくれ」
布袋の中を確認したねねは、真っ青になった。
「こんな大金!受け取れません」
「そうか……しかしあいにく今は細かい金を持っていなくてな。ではこれを損害補償に使えばよい。残りは無事、下の町に到着したら払おう」
そういうと、布袋をキツネ顔の男へと渡した。
「ひいっ……!」中身を確認した男は、目を白黒させる。
「これだけあれば、今回の損失すべてがまかなえるのでは……」
ざわつく男たちを尻目に、小西はねねに向かって言った。
「諸事情により、一刻も早く下の町に向かいたい。出港準備を頼めるか?」
「はい!もちろんです。ありがとうございます」
深々と頭をさげるねねを見て、直はひゅうっと口笛を吹いた。
「やっべ、にっしーめちゃくちゃかっこいいな!」
こうして新川屋の樽廻船は、帰路の途についたのであった。
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