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第一章 | 傾奇ブルワー、江戸に飛ぶ
傾奇ブルワー、江戸に飛ぶ 其ノ参
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「つる、なおを厨房に呼んでくれ」
喜兵寿が座敷にいるつるに小さく声をかけると、しばらくして上機嫌ななおが現れた。
「この日本酒まじで最高だよ!ってそれ俺が造ったビールじゃん!ないと思ったら喜兵寿が持ってたのか」
「お前がくれたんだろう。なあ、さっきから言っている『びいる』とは一体なんなんだ?」
「あー喜兵寿もビール知らない系?いやあ、まさか世の中にビール知らない人間がいるとは思ってなかったからさ、びっくりしてるわ。でも俺らブルワーの力がまだまだ足りてないってことでもあるんだろうな、と思ってさ。正直やる気でたよ、ありがとな」
「だから『びいる』とは……」
「ま、説明するより飲んだ方が早いって」
なおはそういうと喜兵寿の手から瓶を奪い、ポケットから出した細長いもので瓶の蓋を開けた。
「なっ!?」
シュポっという音と共に、瓶から一気に泡がこぼれだす。
「こ、こ、これはなんだ?!」
「うわ、喜兵寿、瓶振ったな~!なにか入れるもの、入れるものっと……まあこれでいいか」
なおは棚に置いてあった湯飲みに液体を注ぐと、喜兵寿に差し出した。
「ほい、これが俺が造ったビール」
湯飲みを覗き込んでいた喜兵寿は、炭酸の弾ける様に目を見開くと裏返ったような声を出した。
「酒が、酒が跳ねている……!」
「あはははは!おもしろい言い方すんなあ!そうだろう?しゅわっしゅわだぜえ。ってか早く飲んでみてくれよ」
「これは本当に飲んでも大丈夫なのか?」
喜兵寿はおそるおそる湯飲みに鼻を近づけると、くんっと大きく息を吸い込んだ。
「やはり嗅いだことのないが、これは紛うことなき酒のにおいだ。香ばしく炒った穀物のにおいに、これは蜜柑の皮のにおい、だろうか。あとは……米のようなにおいもするな?」
においをかぐと、喜兵寿の目の色が変わった。
今度は湯飲みの中の液体を数滴、自分の手のひらにのせる。
「色は山吹色なのだな!いや、実際はもっと濃いのか?おい、なお!この酒、肌の上でも液体が小刻みに震えているぞ!これは一体どうしたものか。本当に奇術のような酒だ。嗚呼、このまちの酒はすべて飲み尽くしたと思っていたが、まさか今日という日にこんな出会いがあるなんて」
「だから早く飲めって!」
にやにやとおかしそうに見ていたなおだったが、ついに我慢できずに突っ込んだ。
「小難しいこといってないで、まずは俺の自慢の酒を飲んでみてくれよ」
「……たしかに、そうだな。申し訳ない」
喜兵寿は小さく咳ばらいをすると姿勢を正し、改めて湯飲みに向かい合った。
「では、いざ」
そういって、ぐうっと湯飲みの中の液体を一気に飲み干す。
「……っ?!」
喉を抑え、目を白黒させる喜兵寿。
「ぐうううううううううううう。うわあああ。舌が!喉があああああ!」
なおはその様子をきょとんとした顔で見ていたが、次の瞬間には大爆笑していた。
「ぎゃははははは!なんだそれ!!!まじでうけんだけど。まさかそんな初めて炭酸飲んだ子どもみたいな反応するとは思わなかったわ」
喜兵寿は肩で息をし、涙をためながらぜえぜえと言った。
「お前、まさか毒を盛ったのでは……」
「はあ?ってか喜兵寿も俺と同じく好きで酒に関わる仕事してんだろ?酒に情熱注いでるやつが、そんなことするわけないだろ?」
爆笑を止め、ぎろりと睨みつけるなおに対し、喜兵寿は神妙な面持ちで小さく頭をさげた。
「すまない。口の中に雷でも落ちたのかと思ってしまった」
「ったく……」
なおは残ったビールを、瓶から直接ぐびぐびと飲んだ。
「やっぱ俺の造ったビールはうまいわ。それにしてもビールだけじゃなく、炭酸すら飲んだことないって、本当に時代劇の世界みたいだな。ってか喜兵寿は髪長いけど、飲みに来てるやつら、まじで全員着物にちょんまげだしさ。え、まじでここ江戸時代?みたいなさ。そんなおかしな格好して、今日は祭りでもあるのか?」
なおの言葉に喜兵寿は考え込んでいたが、しばらくして言った。
「お前の言っている意味がわからんが……この町の大抵の男はまげを結っているぞ?」
「は?何言ってんだよ。そんなわけあるはずないだろ?」
なおは笑いながら、店の外へと出ていった。と思いきや、ものすごい勢いで帰ってきた。
「え?喜兵寿!え?なんだここ?時代劇の人しかいないんだけど。え?これって映画のセット?」
「だからそれはどういう……」
喜兵寿がしゃべり終わらないうちに、「いや、もう一回みてくる!」となおは飛び出していき、またしてものすごい勢いで厨房に飛び込んできた。
「ちょんまげ、馬、あと全部土!!!まじで土しかない!んでもって全員着物じゃん。草履じゃん。え、ちょんまげじゃん!はあ?俺まだ寝てる感じ?それか酔っぱらってるのか?いや、酔っぱらってはいるけれども!」
大きな声で取り乱すなおに、つるも店の客も「どうした、どうした?」とわらわらと厨房に集まってきた。
「ひょっとしておれ、タイムリープでもしたのか?!いや、そんなまさかな!あはははは」
なおはひとしきり騒ぐと、突然ぴたりと止まるといった。
「よくわかんねえけど……とりあえず酒飲むわ。喜兵寿、熱燗1本つけてくれ」
喜兵寿が座敷にいるつるに小さく声をかけると、しばらくして上機嫌ななおが現れた。
「この日本酒まじで最高だよ!ってそれ俺が造ったビールじゃん!ないと思ったら喜兵寿が持ってたのか」
「お前がくれたんだろう。なあ、さっきから言っている『びいる』とは一体なんなんだ?」
「あー喜兵寿もビール知らない系?いやあ、まさか世の中にビール知らない人間がいるとは思ってなかったからさ、びっくりしてるわ。でも俺らブルワーの力がまだまだ足りてないってことでもあるんだろうな、と思ってさ。正直やる気でたよ、ありがとな」
「だから『びいる』とは……」
「ま、説明するより飲んだ方が早いって」
なおはそういうと喜兵寿の手から瓶を奪い、ポケットから出した細長いもので瓶の蓋を開けた。
「なっ!?」
シュポっという音と共に、瓶から一気に泡がこぼれだす。
「こ、こ、これはなんだ?!」
「うわ、喜兵寿、瓶振ったな~!なにか入れるもの、入れるものっと……まあこれでいいか」
なおは棚に置いてあった湯飲みに液体を注ぐと、喜兵寿に差し出した。
「ほい、これが俺が造ったビール」
湯飲みを覗き込んでいた喜兵寿は、炭酸の弾ける様に目を見開くと裏返ったような声を出した。
「酒が、酒が跳ねている……!」
「あはははは!おもしろい言い方すんなあ!そうだろう?しゅわっしゅわだぜえ。ってか早く飲んでみてくれよ」
「これは本当に飲んでも大丈夫なのか?」
喜兵寿はおそるおそる湯飲みに鼻を近づけると、くんっと大きく息を吸い込んだ。
「やはり嗅いだことのないが、これは紛うことなき酒のにおいだ。香ばしく炒った穀物のにおいに、これは蜜柑の皮のにおい、だろうか。あとは……米のようなにおいもするな?」
においをかぐと、喜兵寿の目の色が変わった。
今度は湯飲みの中の液体を数滴、自分の手のひらにのせる。
「色は山吹色なのだな!いや、実際はもっと濃いのか?おい、なお!この酒、肌の上でも液体が小刻みに震えているぞ!これは一体どうしたものか。本当に奇術のような酒だ。嗚呼、このまちの酒はすべて飲み尽くしたと思っていたが、まさか今日という日にこんな出会いがあるなんて」
「だから早く飲めって!」
にやにやとおかしそうに見ていたなおだったが、ついに我慢できずに突っ込んだ。
「小難しいこといってないで、まずは俺の自慢の酒を飲んでみてくれよ」
「……たしかに、そうだな。申し訳ない」
喜兵寿は小さく咳ばらいをすると姿勢を正し、改めて湯飲みに向かい合った。
「では、いざ」
そういって、ぐうっと湯飲みの中の液体を一気に飲み干す。
「……っ?!」
喉を抑え、目を白黒させる喜兵寿。
「ぐうううううううううううう。うわあああ。舌が!喉があああああ!」
なおはその様子をきょとんとした顔で見ていたが、次の瞬間には大爆笑していた。
「ぎゃははははは!なんだそれ!!!まじでうけんだけど。まさかそんな初めて炭酸飲んだ子どもみたいな反応するとは思わなかったわ」
喜兵寿は肩で息をし、涙をためながらぜえぜえと言った。
「お前、まさか毒を盛ったのでは……」
「はあ?ってか喜兵寿も俺と同じく好きで酒に関わる仕事してんだろ?酒に情熱注いでるやつが、そんなことするわけないだろ?」
爆笑を止め、ぎろりと睨みつけるなおに対し、喜兵寿は神妙な面持ちで小さく頭をさげた。
「すまない。口の中に雷でも落ちたのかと思ってしまった」
「ったく……」
なおは残ったビールを、瓶から直接ぐびぐびと飲んだ。
「やっぱ俺の造ったビールはうまいわ。それにしてもビールだけじゃなく、炭酸すら飲んだことないって、本当に時代劇の世界みたいだな。ってか喜兵寿は髪長いけど、飲みに来てるやつら、まじで全員着物にちょんまげだしさ。え、まじでここ江戸時代?みたいなさ。そんなおかしな格好して、今日は祭りでもあるのか?」
なおの言葉に喜兵寿は考え込んでいたが、しばらくして言った。
「お前の言っている意味がわからんが……この町の大抵の男はまげを結っているぞ?」
「は?何言ってんだよ。そんなわけあるはずないだろ?」
なおは笑いながら、店の外へと出ていった。と思いきや、ものすごい勢いで帰ってきた。
「え?喜兵寿!え?なんだここ?時代劇の人しかいないんだけど。え?これって映画のセット?」
「だからそれはどういう……」
喜兵寿がしゃべり終わらないうちに、「いや、もう一回みてくる!」となおは飛び出していき、またしてものすごい勢いで厨房に飛び込んできた。
「ちょんまげ、馬、あと全部土!!!まじで土しかない!んでもって全員着物じゃん。草履じゃん。え、ちょんまげじゃん!はあ?俺まだ寝てる感じ?それか酔っぱらってるのか?いや、酔っぱらってはいるけれども!」
大きな声で取り乱すなおに、つるも店の客も「どうした、どうした?」とわらわらと厨房に集まってきた。
「ひょっとしておれ、タイムリープでもしたのか?!いや、そんなまさかな!あはははは」
なおはひとしきり騒ぐと、突然ぴたりと止まるといった。
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